実家じまい:農地の売却方法と売却の手続き
今日は家づくりというより、家の最後の始末、いわゆる実家じまいに絡めてお話ししたいことがありましてね。実家をいろいろ処分したいんや、何とかしたいんや、というご相談の中で、最近よく聞くのが「兼業で農業をしていて農地がある。田んぼとか畑がある。これも何とかしたいんだけど」という話なんです。で、そのときに意外とみんなわかってないというか、知らないからすごく安易に考えてしまっていて、でもそれって結構怖いなと思うことがたくさんあったので、今日は家づくりから少し外れるかもしれませんけど、そんな話を解説していきたいと思います。
それではいつものように、私の板書を見ていただけたらと思うんですけど、こういう話をするとだいたい「農地の処分って大変なんですよね」って聞かれるんです。そうですね、一般的には大変です。ただ、「具体的にどういうところが大変だと思いますか」って聞くと、意外とはっきりしないことが多いんですよね。そこを少し理解しておいてもらうと、特に年もいってきて「子や孫に迷惑かけたくない」と思ってるご本人はわかってる、切羽詰まってることが多いんですけど、子どもさんとかお孫さん側は、辛いかもしれませんけど「それはおじいちゃんおばあちゃんがやってくれたらええやん」みたいなトーンが出たりするんです。だから今日は、周りでのんびりしてるお子さんたちにこそ、特に聞いてほしい話なんです。
まず、農地の売却が難しいのにはちゃんと背景があります。その一つが、農地は農地法という法律で強く縛ってある、というか保護してあるんです。当たり前なんですけど、農業って食料を作る仕事で、食べるものは生き死にに直結する根本ですから、変なことにならないように法律の中で強く守られてるんですね。だから農地を売るとか譲るとかいうときには、各市町村にある農業委員会に届けを出したり、許可をもらう必要がある。ここが大きなハードルになります。いやいや、めんどくさいって言っても、仮に誰か買ってくる人がいて売買契約を結んでも、無許可の売買は無効にされるんです。契約書を認めません、って法律で言われるから、所有権移転のところで止まる。お金をもらった人は「もらったし」ってなるかもしれませんけど、払った人は所有権を買えてないわけで、そりゃ揉めますよね。だから誤魔化しが通るような話ではないんです。それと、農地の売却は誰にでも売ったらいい、というわけじゃない。買い主の条件が限定されるんです。
さらに、農地を農地として売るだけじゃなくて、農地以外の用途に転用して、という話も出てくるんですけど、その転用の基準もとても厳しい。しかも、専業で大規模に農地を持ってる人ばかりじゃなくて、こじんまりした面積の農地を持ってる方が多いとなると、そもそも農地って値段が宅地に比べたら10分の1以下ぐらいって言われたりするぐらい、値がさがないんです。値がさがないと、不動産業者さんみたいなプロは、手間の割にうまみがない。売買金額に応じた手数料の仕事ですから、金額が小さいと手間ばっかりかかってお金にならへん、となって、熱心にやってくれにくい。こういうところが難しさとしてあります。で、それを聞いて「嫌な感じがしますね、じゃあ放っておきますわ」って言いたくなるんですけど、いやいや、農地ってそのまま放っておいたらデメリットがすごくあるんです。まず行政的な話で言うと、放りっぱなしの田んぼや畑って荒れるじゃないですか。草がボーボーになって、虫がビュンビュン、みたいになる。十分管理されていない農地を放置したら、固定資産税を1.8倍ぐらいに上げますよ、みたいなことも言われたりする。実害が出るんです。それに、ほったらかしたら劣化するでしょう。劣化したものをもう一回まともに農地として使おうと思ったら、復旧に手間暇もお金もかかる。テレビ番組で荒れ果てた田畑を大人数で復旧していくのを見たりすると、あれはホンマにそうやなと思います。さらに厄介なのは、草がボーボーで虫が湧いたりすると、近隣に何もなかったらまだしも、大抵は隣に田んぼや畑がある。隣は一生懸命きれいに管理してるのに、こっちから草がワーッと来たり虫が飛んで行ったりしたら、困るって苦情が出ますよね。苦情で怒られるぐらいで済めばいいんですけど、場合によっては、対応してくれへんかったら損害賠償請求、みたいな話だってあり得ます。何より、農地をほったらかしにしたら価値がもっと下がる。手入れされた農地と、荒れ放題の農地が同じ価値なわけがないですから、もらった人が労力をかけないと使えないとなったら魅力がない、買う意味がない、ということになってしまうんです。
それで、知識として覚えておいてほしいのは、農地を売るときは大きく二つの方法があるということです。まずは農地を農地のまま売る、いわゆる3条許可のイメージですね。これは農地をそのまま次の所有者に売る話なんですけど、流れはだいたいこうです。最初に買主を探さなきゃいけない。引き受けてくれる人が明確じゃないとスタートできないんです。多いのは近隣の農家さんとか、農協の人に「うちの田んぼ買ってくれる人おらへんやろか」って聞く。農業委員会も地域の農業の方が関係者として入ってるから、「それやったら引き受けてくれるとこあるんちゃうか」みたいな話が出ることもある。ただ、その買い主には要件があるんです。農業の専業従事者じゃないとアカン、現時点で一定の農地を持ってないとアカン、みたいな条件が絡んだりする。だから「今度田んぼしたいから欲しいんです。今まで農業に縁がなかったんです」って人は、買いたいと言っても要件を満たせないことがある。じゃあ誰が農業をやるんですか、機械は持ってますか、農機具小屋はありますか、コンバインはどうしますか、みたいな話になって、そういうところを含めて要件を満たさないと進まない。買い主を見つけるのがなかなか大変なんです。見つかって初めて売買契約。ただし「この人に売り渡していいよ」という許可が下りることが条件付きで契約します。それから農業委員会に「こういう売買契約を結ぼうとしております、許可ください」と申請して審査してもらう。早かったら1か月、でも3か月以上かかることが多いんじゃないかなと思います。会合が何か月に1回とか、地域で事情があるので、ここは各所に確認が必要ですし、申請は買い主と売り主が共同で出さなアカン。だから「買ってあげるから売り主さんだけで詰めといて」ってわけにはいかないんです。買い主探しがむちゃくちゃ大事でしょ。竹馬の友みたいに隣近所で引き受けてくれるなら話しやすいかもしれませんけど、代が変わって話したことない、となると全然だったりする。許可証が下りて初めて所有権移転、お金の授受、で終わり。いちばんスムーズにいきやすそうな「農地のままの売却」ですら、実はかなり困難で、意思の力もいるということなんです。
そしてもう一つが転用です。4条許可とか5条許可とかになると思いますけど、農地を駐車場にしたい、新築を建てたい、事業用地にしたい、最近だと太陽光発電をやりたい、みたいな用途に転用して売買したい、というイメージですね。これがまた流れとしては増えて、まず最初に「あなたの農地は転用が許可される場所なのか」をジャッジしなきゃいけない。例えば農業振興地区、通称農振みたいなところは転用はまずできません。だから転用による売買はそもそもありえへん。あと、昔の小さい田んぼを区画整理して大きくきれいにして、機械でやりやすくした集団農地みたいなところで、整備から8年しか経ってないようなところは絶対に不可。8年以上になったら可能性が出るかもしれませんけど、行政として補助も入れて区画整理したところなので、簡単には転用しにくいんじゃないかなと思います。それ以外が1種農地・2種農地・3種農地に分かれていて、どれかによって条件が変わる。で、「農地の売買は得意です、相談してください」って書いてる不動産会社さんのページをよく見ると、最後の方に小さい字で「○○市限定」とか「市街化地域のみ」とか書いてある。要するに、1種農地は広い集団農地で農業が盛んな場所だから、完全に不可じゃなくても条件がすごく狭い。2種はそれより少し緩むけど、それでも駅や官公庁に近いとか、周辺環境との兼ね合いで判断が要る。一方で3種農地みたいに、市街化区域や都市化区域の中の農地は、業者さんから見ると「ぜひ貸してください」「すぐ宅地に開発させてもらって」になりやすくて、許可もおりやすいし転用もしやすい。結局ここは、転用する社会的な根拠・意義が問われるんですね。可能性があるとわかって初めて不動産会社に査定依頼をして、そこで「難しいです」か「頑張りましょう」になる。そこから買い手探し、転用許可が出ることを条件に売買契約をいったん結んで、農業委員会に出して審査してもらう。転用は1年以上かかるのはザラです。それぐらい慎重なんです。ここでポイントは、農業以外にこれをやった方が有益です、という事業計画書を作らないといけないし、それをプレゼンする力、交渉力が求められる。だから「私に任せてください」って言われても、ちゃんとしてくれへんかったら困る。しかも、もし一回ノーになったら、もう二度と受け付けてもらえへん、あなたの一生では無理、みたいなことになりかねない可能性もあるので、見立てはより慎重にいかなきゃです。3種は比較的進めやすいとしても、問題は2種以上。これが本当に大変で、時間もかかるし、進めていくエネルギーが要るんです。
僕が相談を受けているのは、ある一定の年齢の方が多いです。特に、おじいちゃんが先に亡くなられて、おばあちゃんが一人になったような方が「隣のおっちゃんのところに行って、この畑買ってな」って話しに行って、そうかそうかって聞いてくれたらいいですけど、「いやー無理やなー」って言われて、そうやなって引っ込んでしまうような感じだと、うまくいかへんのです。それから、転用が可能なところでも時間がすごくかかるというのは、お年寄りにはそれをやり切ること自体がしんどい、という印象もあります。80代だったら普通に暮らしてても、転んだり体調が悪くなったり、病気の症状が出てしんどいんや、みたいなこともよく聞きますからね。だから僕がこの話を取り上げたかったのは、農地を持っているおじいちゃんおばあちゃんがいる子どもさんたち、場合によったらお孫さんも含めて、ぜひ「それはおじいちゃんおばあちゃんが方向づけしておいてよ」だけじゃなくて、一緒になってやってあげてほしい、ということなんです。なんでかと言ったら、「私は興味ないですわ」で相続放棄するならそれでもいいけど、「農地はいりません、でも残してるお金はいります」っていう都合のいいことはできへんから、相続放棄は全部放棄です。そうなると放っておかれへん。年寄り任せじゃなくて、若い人がリーダーシップを発揮して、おじいちゃんの意思を言ってもらったり、農業委員会の人に「うちのおじいちゃんはこうなんや」って伝えたりすると、業者が力強いプレゼンをするのとは別の、人の心を打つ力もあると思うんです。とにかく時間がかかるから、「いずれやったらええや」って言ってたら間に合わなくなる可能性もある。一旦そうなってしまってからは本当に大変だと思います。ぜひ、急いでまずは着手する、若い人を巻き込んでやる。中には「子どもがおらへんのです」って言って姪っ子さん甥っ子さんに託そうとしてる方もおられましたけど、よっぽど真意が伝わらへんかったり、プラスアルファで託すものがないと、相手も動きにくいことがあると思うのでね。建物をしまう、というのは解体したらいいとか、宅地なら売りやすいとかあるかもしれませんけど、そこに農地がセットになると、非常に手間暇がかかる。そこを頭に置いて、若い方にリーダーシップを発揮していただけたらと思います。


