
先生のご著書の冒頭にもありましたが、この10年で日本の住宅はたしかに進歩したという実感があります。断熱や気密の底上げが進み、現場でもお客様でもUa値やC値が共通言語になりました。
そうなんですよね。何十年も動かなかった日本の住宅が一気に動き出した感はあります。その文化が根づいたこと自体は、とても大きいと思います。
その一方で、最近は“数字の勝負”に寄りすぎている感覚があるんです。「うちはUa値がこれ、C値がこれ」という会話ばかりになってしまっている。
ええ。まず、この10年で平均点が上がったのは事実です。以前は「測らない・語らない」が当たり前でしたから、Ua値やC値を共有できる環境になったことは前進です。ただ、そのうえで本当に競うべき数字を間違えたくない。あえて言えば、暖房負荷・冷房負荷こそが本丸です。ところがこれは国の共通基準になっておらず、計算もUa値より複雑だから業界標準になりにくい。その結果、見栄えの分かりやすいUa値・C値だけが独り歩きしやすいんです。
Ua値を下げる(良くする)ために窓を小さくする、一律にトリプルにするといった手段が目的化してしまう。その結果、薄暗く風通しが悪い家になったり、部材の性能だよりになる事でコストが上がる——そこに強い違和感があります。
負荷を下げる核心は設計側にあります。つまり、冬は日射をきちんと取得し、夏は外で確実に遮蔽すること。ここが図面と納まりに落ちていなければ、Ua値やC値を並べても実態としての負荷は下がらないことが多い。窓を小さくしてUa値だけコントロールするのは近視眼的で、暮らしの質からは離れてしまいます。
僕らも順番を間違えたくないんです。先生がずっとおっしゃってきた通り、「太陽に素直な設計」をベースに先にして日射から設計を決め、最後に数字で確かめる。この筋だけは外さない。負荷計算についても全棟ではまだですが、やる価値の大きさは現場で強く感じています。
ええ、数字は目的ではなく結果です。実務ではまず日射の当たり方を読む。それを開口計画(南は取り、東西北は抑える)や庇・外付け日除けといった実装に結びつける。ここができていれば、数字と体感が同じ方向を向いてきます。逆にここを外すと、「Ua値は良いのに寒い/暑い」「暗いのにコストは高い」といった齟齬が起きる。結局は「暮らし→設計→数字」という順に戻ることなんです。
「太陽の読みを先にする」。この当たり前が浸透していけば、いずれ今の“Ua値合戦”は自然と落ち着いていく——そんな未来を、僕らも実務で示していきたいです。
そうなんですよね。期待しています。