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フィリップ・ジョンソンの「タウンハウス」を知ると家づくりはもっと豊かになる

今日はフィリップ・ジョンソンというアメリカの建築家が手掛けた建物について、話をしたいと思います。僕が勝手に「巨匠シリーズ」と呼んでいるものの1つだと思って聞いてください。

今回話をするのは、ニューヨークのマンハッタンの中にある「タウンハウス」というものです。「フィリップジョンソンのタウンハウス」という言葉で検索してもらうと、写真がすぐに出てくると思います。これはすごい有名な建物になるんですが、僕が今回取り上げたのには、ちょっと理由があります。今、僕は設計の勉強のために、飯塚豊先生の設計塾に通っています。僕自身、もう60手前のおっちゃんなりますが「なるほど。勉強になるなぁ」と思うことがたくさんあるんですね。飯塚先生から、住宅の豊かさ・設計上の豊かさとは何か?という含蓄のあるお話を聞いていると非常にワクワクしてしまいます。このワクワクした気持ちの延長みたいな感じで、ふと思い出したのが、フィリップ・ジョンソンのタウンハウスになります。

フィリップジョンソンと言うと、同じくニューヨークの郊外にあるガラスの家、通称・グラスハウスも有名です。知ってる人は知ってると思います。写真を見て「あ、知ってる!」という方も多いと思います。ニューヨークの郊外の、自然が豊かなところにガラス張りの家があるんですね。これは1949年にできた建物です。フィリップ・ジョンソンの処女作と言われてます。しかもこれは自分の家です。すごいですよね。初めて設計して世に通った家が、自分の家で、しかもガラス張り。僕は学生の時に先生に教えてもらって見ました。当時もね「すごい家だなぁ。かっこいいなぁ」と思ったんですが、家づくりの実務に染まれば染まるほど、自分には違う世界だなと思いながら眺めていた家でもあります。

フィリップ・ジョンソンのガラスの家は強烈なものですが、一方で、これを現実的に考えて形にしたのが今回解説する「タウンハウス」という建物なのかなと、僕は勝手に解釈しています。タウンハウスというのは、有名なロックフェラー1世の最初の婦人がお施主さんになっています。彼女がフィリップ・ジョンソンに設計を依頼して、完成した家なんですね。マンハッタンですから、当然ビルがいっぱい建っています。このタウンハウスはビルの谷間みたいなところにありますね。日本で例えるなら京都みたいな感じで、間口はあまり広くなくて、奥行きがグーンとある古い建物を解体したあと、元々の壁などを利用しながら設計されたそうです。

ここで僕のスケッチを見てください。拙い絵で恐縮ですが、こんな感じになります。間口は6.9m、奥行きは21m〜22mぐらいになります。まずは玄関が16m分あって、リビングダイニングがあって、真ん中に中庭があって、その奥にはメインのベッドルームとかバスルームとかドレッシングルームがあります。ほぼワンルームで「これって設計なの?」というぐらいシンプルです。すごくシンプルなんですが、すごく贅沢で芳醇な空間なんです。

僕が昔この家を見たとき「これはお金持ちの道楽で建てた家だから、僕ら一般庶民が住むような家ではない」というような先入観があったんです。でもロックフェラー婦人はですね、この家をとても気に入っていて、ゲストを呼んで楽しいパーティーをしたり、自分もそこでくつろいだり、社交的な場と普段使いとしての場が合わさった建物になっていたようです。

この家を説明していきますと、まず正面にドアがあります。ここの家の前は大きな通りなので、ドアがもう1枚あって建物入っていきます。家に入ったらアイストップというか、屏風みたいな感じの収納があって、コートをかけたり靴を置いたりするようなスペースになっています。そのすぐ後ろにはダイニングテーブルがあるという造りになっています。ドアの横には折りたたみの屏風みたいなのがあって、これを開けるとキッチンに着きます。今見ても「こんな仕切りがあるんや!」って感じで斬新です。家の中にはグランドピアノが設えてあったり、フィリップ・ジョンソン得意の非対称のソファーセットや薄型の暖炉があって、フィリップ・ジョンソンらしさが凝縮された空間になっています。

なんといってもですね、ものすごい金持ちの家なので、ジャコメッティという芸術家の作った彫刻やマリーニの彫刻とか本物の美術品がさりげなく置かれています。ちょっとした飾り棚の上にもあったりして、見る人が見たら「すごいですね!」となります。高級美術館の門を切り取ったような設えになっています。ここから更に奥に行くと、全面ガラス張りです。当時からすると、かなり大きなガラスを調達して使われていると思います。デザイン上、なるべくノイズにならない形になっていますね。向こうの空間を見渡す感じに設計されていて、その奥には池があって、すごい樹形の綺麗な涼やかな木があって、さらに奥にベッドルームがガラス越しに見える造りになっています。

両側にビルが建っているので光が入りにくいように思えますが、実はハイサイドライトが付いているんですね。ある程度光が入るようになってます。そして、中庭に天から降りそそぐ光みたいな感じの造りになってるんですよ。

フィリップ・ジョンソンが設計する建物にはテーマがあります。本人は「私の設計は外の建築というカテゴリと、内の建築というカテゴリに、明確にテーマって別れる」なんてことをおっしゃっているんですね。このテーマに当てはめると、ガラスの家は外の建築になります。一方、タウンハウスは内の建築ということで、内的空間みたいな感じにしてるんですね。そういった感じで、僕は「ガラスの家は内の建築なんや」って思いこんでいた部分がありました。でも冒頭の飯塚先生の話に戻ると、いろいろ教わるうちに「そうじゃないな。内のものとは違うものなんや」ということを感じたんですよね。

以前、巨匠シリーズでル・コルビジェがお母さんに建てた「小さな家」というのを解説しました。あの時にも言いましたが、コルビジェにとって住宅というのは「住む機械」なんですね。なので機能は必ず満たさねばならない、というのがあります。一方でジョンソンは、住宅をうまく機能させるために、間取りなどをデザインするんですけど、それが美的創造の邪魔になったら、それはもはや建築ではないという厳しい意見を掲げています。これは別にコルビジェに反抗してるわけではありません。コルビジェの建物も機能的で美しいです。ジョンソンは、そこをもっともっとハッキリさせていく感じです。機能的で美しく、豊かな空間というのがジョンソンのメインテーマですね。

僕みたいな工務店のオヤジからすると、ただただすごい、という感じです。高みの建築って感じです。そのジョンソンが目指してきたものの一端が、今回のタウンハウスでは中庭に現れていると思います。これが今回みなさんに聞いていただきたかったところなんです。

中庭と言ったらそれで終わってしまいますが、この中庭はどういう空間かと言うと、中間領域になります。外の自然と、タウンハウスつまり内の空間の真ん中にありますのでね。飯塚先生に教わったばかりの内容で、すごく腑に落ちたことの1つに「心地のいい建物には必ず、内でも外でもない、曖昧な中間的な空間が設えてある」ということがあります。

家づくりというのは当然、間取りをちゃんと考えて、機能的に家事がしやすかったり、合理的な空間をデザインしていきますが、建物の豊かさというエッセンスを出していくのなら、中間領域をちゃんと考える必要があるんですね。飯塚先生から、そのことを教わったとき、僕の中で「フィリップ・ジョンソンのタウンハウスが何か引っかかるなぁ」と思ったんです。59歳の僕にとっての再発見みたいなものです。

冒頭でもお伝えしましたが「フィリップ・ジョンソン タウンハウス」で検索すると、いろいろな写真がたくさん出てきます。僕の拙いパースや説明だけでは全然深みも何もないので、ぜひそういうのを見ていただきたいと思います。

みなさんが家を建てるときは、予算が決まっていると思いますし、いろんな制約があると思うので、まずは機能的な間取りを求められると思います。そうなると陥る罠が2つあるんです。その1つがですね間仕切りをいっぱい作ってしまうこと。日本の人って、なぜか間仕切りをたくさん作りたがるんですよね。でも今は高気密・高断熱とかパッシブ設計などの技術が非常に確立されていて、僕らのような工務店でも駆使できる時代になりました。そうなるとワンルームにして家具とか屏風で仕切るだけでも、機能的な間取りが実現するんですね。なので間仕切りにこだわりすぎないという事を意識してほしいなと思います。

2つ目は機能のことを考えた上での話になりますが、今日出てきた「中間領域」というものをちゃんと作っていくことも大切、ということを知っていただきたいです。もし、これから家づくりに取り組まれる方がいらっしゃったら、この2つを実現するってどういうことなのかな?ということも考えていただけたらと思います。

蛇足になりますが、僕がモリシタの若いスタッフに中間領域の話をしたら、頭にクエスチョンマークが浮かんでました。なんで伝わらないのかなって思って、ちょっと考えてみました。

例えば、南側にウッドデッキ作る家って多いんですよね。でもね、南側のウッドデッキって結構使いづらいです。以前、別の動画で話したことがありますが、南側のウッドデッキって、
屋根も何もなかったら直射日光が降り注ぎます。真夏は暑くて暑くて座ってられないです。もし設計するなら、ウッドデッキの前に落葉樹を植えてください。夏に葉が茂る枝ぶりのいい木があると、それが木陰になって、建物と庭の間に1つ曖昧な空間ができます。あるいは家族みんなで協力してタープを張る。庇みたいにするんですね。深いタープが張ってあると、家という内の建築から外に向かう途中に、内・外とはちょっと違うムードの空間が出来上がります。

「ただのウッドデッキだけやったら物足らんけど、タープ付けたらグッと良くならへん?」という話をしたら、ウチの若い子たちに分かってもらえたようでした。

庭木とか庭づくりという形で捉えるのもいいですが、中間領域という形で考えてもらえると、家づくりが面白くなると思います。今回はマイブームに近い話になりましたが、みなさんの参考になればうれしいです。

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