Q&A:古い家はリノベか、建替えか、お金の面での判断の分水嶺はどこか?
今回も動画を観てくださっている視聴者の方からご質問をいただきましたので、そのことをテーマにお話をしていきたいと思います。古い家をリノベしたらいいのか、建て替えたらいいのか。お金の面で判断する分水嶺はどこですか、という質問です。シンプルに思いますよね。よく聞く話なので、私なりに何をもってそれを考えるか、その道筋を改めて解説していきたいと思います。いつものように僕の板書を見ていただきながら、話を聞いてもらいたいと思います。
どちらを考えるにしても、最近は築年数が重要だと言われますし、僕もそういう言い方をしている時があると思います。でも、この質問をする人には、この家をどうしたらええかなという思いが去来しているんでしょうね。明らかに建て替えた方がいいと思う人は、こんな質問をしないので。まず、築年数だけでリノベを諦めないでください。築どれぐらいですかと聞くと、40年以上、45年なんですと、僕が何も言わないうちから建て替えた方がいいですよねと言われるんです。
確かに1981年、45年前は旧耐震といって、より基準が甘かった時代です。それより古い家はやばいんじゃないかなという見方はありますよね。1981年より後の1982年や85年に建っていても、木造の基準は2000年にまた強化されています。1995年の阪神・淡路大震災を受け、柱や梁の接合部、耐力壁の配置が厳しくなったんです。2000年に建った築25〜26年ぐらいの家は、新耐震で基準も厳しくなっているから良いよねと、確かに目安にはします。
でも、新耐震で見ることも重要ですけど、一番は現実じゃないですか。古い家でも、点検したら基礎は全然どうもない、建物に全然傾きがないとか、沈んでいるところがないとか、柱や梁や土台が全然腐っていないとか。昔の材料は良いものも多いですから、しっかりしているなと。雨漏りがない、昔あってもすぐ止めて綺麗にしてあったなら、心配することはあまりないですよね。こういう現状把握が一番大事だと思います。
お金の面でどこが分水嶺ですかと聞かれても、まず現状はどうなんですかというところからでないと、言いようがない面があります。その上で、現地の家をしっかり見ることの次に考えるのは、なぜリノベか建て替えかで迷うのか。リノベの方がええかなと思うのは、心の引っかかりや残したい理由があるからだと思います。大体3つの理由があるかなと思っています。
1つ目は建物価値です。昔の有名な建築家がデザインした建物は、それだけで価値があるじゃないですか。古い柱や梁には良質なものが多く、今ケヤキの5寸角の柱なんてそうそうないですもんね。昔はケヤキの柱やケヤキの部材を結構使っていて、栃の土台も使っていたから、これはむちゃええものですよね。昔の建具も素敵ですよね。こんなガラス障子は今作れへんでと僕もよく言います。庭や門、石垣など家の佇まいが美しい、書院障子は今じゃ作られへんから残そう。その気持ちはよくわかります。建物価値として残したいということなのか、ということです。
2つ目は家族にとっての価値です。じいちゃんがつくってくれた家、お父さんが建てた家、僕が育った家。この柱の傷は兄貴とケンカしてつけた傷で、おじいちゃんと縁側に2人並んで見た庭が綺麗やね、とか。不動産業者が値踏みする価値とは別に、その家族にとっての価値はめちゃくちゃあるじゃないですか。僕が以前建て替えた家も、おじいちゃんが最後に刻んで建てた家だったので、壊すにはなかなか決断が要りました。
3つ目は土地・法規上の価値です。昔の村内などで、細い道に建っている家を建て替えると、セットバックして1mほど敷地を取られる。今度はもっと奥へやらなアカン、小さい家にせなアカンという場合です。家を小さくするのはかなわんな、敷地がそんなに広くないから、ということもあるかもしれませんね。
用途地域の縛りや建ぺい率・容積率が変わり、同じ床面積では二度と建てられへん場合もあります。再建築不可といって、十分に接道していない、入ってくる道が細いからアカン。セットバックもお宅だけでなく全部してもらわないといけないけど、事実上みんなが建て替えるわけにはいかん、という話です。新築するならこの擁壁ではアカン、法的に造成し直してくださいと言われ、巨額のお金が要ることもあります。石垣は何ともなくても、今の法律ではやり替えろと言われるんです。
そういう法規上の問題はどうなのか。最近はハザードマップも厳しく見直されているので、危険があるから建て替えて対策した方がいいんかな、ということもあります。なぜ残したいのか、なぜ残さない方がいいと思うのか。まず確認して整理していただくのが良いと思います。その上でリノベか建て替えかを比較するなら、条件をそろえないとダメです。
例えば建て替えたら最低でも耐震等級1の家になりますが、リノベでは耐震等級を確保できへんというのでは、比較しても仕方ないですね。リノベの時は、耐震補強をちゃんとしてどれぐらいかかるんですか。基礎補強をしてどれぐらいになるんですか。屋根や外壁の改修は要りませんか。断熱やサッシはどの程度にしてありますか。配管や電話や電気など、ライフラインの更新も考えられていますか。防火処理や防水処理もしていますか。仮住まいの費用は入っていますか。
リノベの部分解体では、めくってみたら修理が要ることもあるので、予備費を見た上で比較できているかが大事です。建て替えでも解体費をちゃんと見ていますか。アスベストが使われていたら、処分にすごくお金が要ったり、届け出も大変です。解体費は大体こんなものですというのではなく、しっかり見た上で解体費を見ておくべきだと思います。古い家は建っていても、今度建てる時に地盤が弱く、地盤補強や地盤改良が要るかもしれません。それも見ておくべきですね。
確認申請や登記し直す費用も要りますし、外構工事もやり替えるかもしれません。仮住まいや引っ越しも含めて全部比べ、完成水準を同じにした上で高いか安いか、どちらが良いかを比べないといけないんです。内装と水廻りだけのお化粧直しのリノベなら、高耐震・高断熱の新築より安く見えます。それでこっちが得かなとなっても、あまり判断したことにならない。予算がこれだけやからリノベにしたというだけなら、僕に質問しても意味がないんです。予算がないなら仕方ないですねとしか返しようがないので。
本当の分水嶺を考える時は、見積金額の差と同時に、工事の後に何年住めるかも入れておいてください。例えばリノベは2500万円、建て替えは3500万円なら、1000万円安いリノベがええと思いがちかもしれません。でも、あと何年安心して住めるんですか。それが20年なら、1000万円高くても50年使える建て替えと比べると、自ずと見方が変わりますよね。工事費の高い安いだけでなく、その費用で何年安心して暮らせるかという視点で比較してほしいんです。
工事総額が建て替えの6〜7割を超えないなら、まずリノベで考えてみるのも良いかなと。ざっくりとした話ですけど、75%を超え、25%ぐらいしか変わらないなら、金額だけでは建て替えの方が何かとええんちゃうかなと思います。でも、今後10年、20年使えたらええんですわというなら、それでもリノベの方がええかもしれませんよね。
将来の修繕費や光熱費などのランニングコストも、リノベと建て替えで比較しておくべきだと思います。リノベは築年数が経っていて、固定資産税の償却が終わり、安くなっている可能性がある。これは得ですよね。ただ、私はあと20年住めたらええんやと判断する道もあるんですけど、あなたたちが亡くなったらどうするんですか。子どもさんたちは困らへんか、という視点もあります。
将来の売却や相続のしやすさ、土地・法規上の合理性も含めて、あと何年使うのかを考え、同じ完成水準で比較していただきたいんです。リノベーションが有利になる前提は、基礎や柱や梁や土台の主要部分が十分に良好であること。これが1つの前提ですよね。良好でも現行の基準に照らして耐震補強が必要なら、合理的に補強できる道筋がつくかどうか。補強が難しい時もありますので、道筋が見えたら有利になります。
断熱や防水や電気や給排水は、ついつい予算が限られると、更新しなくて良いじゃないかという感じになりがちですが、これはやっておいた方が良いです。長く暮らすためにも。リノベーションで1階だけで生活する平屋使いの間取りが可能か、不必要な部分を減築できるか、2階建てでも1階だけの改修で支障がないか。今の庭や日当たりにすごく価値があることや、建て替えたら床面積が小さくなることも、リノベに有利な要素です。
再建築や接道に制約がある場合も、リノベーションの方が良いということになります。室内や佇まいの面で良質な柱や梁や建具がふんだんにあり、活かせたら楽しいんじゃないのという時も有利だと思います。こうしたことを総合して、リノベーションか建て替えかを考えていきます。
最後に、僕の結論はリノベーションして残せるかではなく、残した後にどうなるかで考えてください、ということです。そのために調査が大切です。基礎や構造はあと何年使えるかな。耐震改修や断熱改修には、どれぐらいのコストが見込まれるかな。解体後に何か追加が出えへんかな。間取りはちゃんとつくれるか、床面積は縮小しようかなとか。なぜ残したいのか、本当に家族が残したいものは何だったのか、ということじゃないかなと思います。
あと何年使えるかと合わせ、残せる家かどうかではなく、残した後に家族が幸せなのか。建て替えられるかどうかではなく、建て替えて失うものはないのか、それは何なのかを考え、最後に決めてもらう。それがリノベーションか建て替えかの1つの判断軸だと思います。ぜひ頭に置いていただき、目先の金額でリノベはお金がかからへんかなと決める前に、何年使うのか、そのお金で自分が大事なものを残せるのかをチェックしてもらうのが、僕は一番正しい判断の方向じゃないかなと思います。


