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兼好法師の格言「家のつくりようは夏をもって旨とすべし」を私なりに解説します

今日のテーマは夏の家づくりについてです。有名な格言で吉田兼好という人が徒然草で書いた「家づくりは夏をもって旨とすべし」というのがあります。中学生か高校生の授業で、みなさん耳にしたことがあると思います。この方が生活とか物の考え方、人生諸訓みたいな中の1つとして家の事についても言及して出てきた言葉です。「色々思うかもしれないけど家は夏に対して最適化せよ」という意味ですね。この「夏をもって旨とすべし」という言葉は、建築屋さんとか年長者になると重要視する人が多いですよ。「夏に最適化するってどういうこと?」と言うと、風通しが良くないとダメだよっていう話になります。風通しをよくするのは、僕ももっともな話だと思います。そりゃ風通しの悪い家より、いい家の方がいいに決まってますからね。

一方で、じゃあ風通しを良くしたら夏は暮らしやすいのか?という疑問もあります。僕の師匠である松尾和也先生から、この話題をバーンとぶつけられたときに「本当にそうやなぁ」と気付かされたことがあるので、その話を共有しますね。

まず現代の日本というのは、温暖化の影響でものすごく暑いです。もっと言うと、昔の人からすると想像を絶する気温になってるし、湿度も上がっている。亜熱帯に近い感じです。
そうすると、風通しをすごく良くしても、夏の時期、人間が涼しく過ごせるのかと言うと正直難しいですよね。分かりやすい例としてビルが立て込んでいるエリアをイメージしてみてください。建物がぐちゃぐちゃ建て込んでるところは、クーラーの室外機もたくさん並んでいます。そのエリアの中に風通しの良い家を建てたとして、夏の期間、窓を空けて過ごすとしますよね。そうすると周囲の建物はみんなガンガンクーラーを使うから、家の中には、涼しい風ではなく熱風が入って来ます。なので風を入れるほうが気分が悪くなるくらい暑くなる、という結果になるんですね。これ都会ではよくあります。

それから僕が去年の夏に体験した例もあります。田舎で周りが水田で囲まれたお家に行ったんですね。「自然の中にあるし、窓を開ければ涼しく過ごせるのかな?」と思ったら逆でした。水温ってすごく高くなったらかげろうがユラユラするぐらい、熱気がムンムンになります。スチームサウナみたいな感じです。なので田んぼの中にある一軒家も、窓を開けて風入れようとすると気分が悪くなるぐらい暑くなります。なので家は風通しを良くしたほうがいい、と言う方の根拠として「兼好法師さんだって言っている。何百年も前から言っている」ということを挙げるケースがありますが、僕はちょっと異論があります。

僕のスケッチを見てください。兼好法師さんは「夏をもって旨とすべし」ということを言いましたが、なぜそれを言ったかというと、風通しを良くして涼しくするほかに、カビや腐敗に対する意識があったからなんですね。若い方は実感しにくいと思いますが、昔はよくカビを見ました。昔の食パンって食品添加物が入ってなかったので、すぐカビてましたね。家もそうで風通し良くしとかないと、すぐカビが生えてしまってました。そうすると体に悪いですよね。あとはコレラのこともあります。コロリとも言いますが伝染病が起きることがあったので、それの対策としていつも新鮮な空気を取り込むことが求められたわけです。

ですが、現代の日本の気候を考えると、風通しを図ることで涼しく過ごすというのは、もう難しいです。それに今はエアコンという便利なものがありますよね。エアコンは除湿もできます。現代の家づくりでは計画換気というのが組み込まれているので、まますます家づくりにおける「風通し」のウエイトは小さくなってると感じます。

それで今回は「夏をもって旨とすべし」を現代ならどう捉えるか、というのを考えてみました。僕はやっぱり日除けが大切になると思います。軒の深い家、軒がしっかり出てる家というのは日本の家屋における美しさの1つだったと思います。でも総二階の家の出現で、大屋根に若干の軒があっても、1階の窓には軒がないというのが当たり前のようになってしまいました。この造りによって家のコストは下がりましたが、日除けというのが考えられていない家が普通になってしまった、という面もあります。

みなさんには日除けの4つのやり方を認識して欲しいと思います。①②は、よしず・簾(すだれ)です。よしずは網目状の棒みたいなやつを壁に立て掛けて、日差しをカットするものですよね。素材は葦とか竹とか様々あります。よしずの利点は、風は通すけど日はカットする、ということです。例えば掃き出しの窓に立て掛けた場合、よしずの両端は斜めになっていますから、通り抜けができる。出入りができます。すごい優れものなんですね。簾は昔、軒の先につけて西日除けとして使っていました。これも優れものです。

ただ簾を機能させようと思うと庇(ひさし)がいります。庇が③になります。南面に関して窓の高さが10だとしたら、庇は3ぐらいて作っておく。これだけで真夏の強い日差しがカットできます。ここに簾付けたら完璧です。④がグリーンカーテンです。これは今どきのお家でも見かけることがありますよね。最近は総二階の家でもベランダがない家があります。そういう場合は壁面にフックだけ付けておくんですね。ここからピアノ線みたいなものを引っ張って、窓の前にアンカー打ったり、コンクリートブロックの重たいやつにフックを付けるようにします。プランターとか植木鉢から、ツルが伸びる植物を植えて巻き付ければOKです。僕が子どもの頃は、よく朝顔とかヘチマでやってましたね。最近多いのはゴーヤかな。ゴーヤはいいですよね。夏になると、どんどん茂ってくれて、どんどん実がなって、ビタミンCたっぷりな野菜炒めもできる。おすすめです。

まとめになりますが、今の時代に合わせて「夏をもって旨とすべし」を考えるとき、風通しも、もちろん意識はします。でも僕はどちらかと言うと、エアコンがしっかり効く家にすること・日射遮蔽がしっかりできる家にすることの2つに尽きるのかなと思います。

蛇足になりますが、最後に徒然草で兼好法師さんが何を言っていたのかというのを、現代語訳で解説してみました。「家の造りは夏を中心にしたほうがいいよ。なぜなら冬はどんな所にも住めるから。暑い頃に悪い住まいは耐え難い」となります。みんな、暑いのは耐えられないよね、ということを言ってるんですね。「深い水は涼しい風情がない」ということも言っています。これはだ池みたいなものより、深さはそこまで求めなくても、水がチョロチョロ流れる方がいいみたいなことです。それから「遣戸のある蔀(しとみ)」と言って、上がパカッといくより引き戸が良いよってことも言ってます。「天井が高いのは冬は寒い」「灯火も暗くなりがち」とも言っています。昔の照明は蝋燭とか行灯とかだから、天井が高いと部屋が暗くなるということですね。それから「家は実用性だけでなくて、用のないところを作ったほうが面白みがある。時に思いもしない機能が出てきて、これが人の噂ではええ」ということも書かれています。

兼好法師を引き合いに出す人は、「夏を旨とすべし」は、よく言いますが、「天井が高い家はあかんで」とはなかなか言わないです。なんというか…兼好法師が当時の時代感の中で良かれと思って「いいよ」と言ったことを、自己都合で引っ張ってる感じがしてしまうんですね。「夏を旨とすべし」は、あくまで当時の時代の中で兼好法師がおっしゃってることです。なので、この言葉に引っ張られすぎてしまうより、兼好法師さんは何を言いたかったのかということを捉えて活用することのほうが重要じゃないかなと思います。大先輩の方々には「生意気だ」「森下ごときが何を言っているんだ」と思われているかもしれません。でも僕は、現代の技術革新で良くなったことは取り入れて、家づくりするのがいいと思います。風通しにこだわる人の中には、気密を馬鹿にしたり「そんなんいらん」って言う人もいらっしゃいます。でも気密がしっかり取れていなければ、エアコン効かないですよね。それが僕の感覚です。

兼好法師は合理性を重んじる人です。なので現代に置き換えるなら、僕はエアコンがよく効いて、太陽光のカットがしっかりできてる家が、日本の夏に最適化された家だと考えます。それこそが、家族が健康に楽しく暮らせる家だと思います。みなさんには、そのことを頭に置いていただいて、家づくりに活かしていただければと思います。

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