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家を建てるときに読んでおくといい本(父親編)

今回は家を建てる前に読んでほしい本のご紹介です。僕は祖父も父も大工で、自分も家づくりの仕事をずっとしています。家づくりに関してそれなりの自負もありますが、今回の本を読んで「自分にこの視点はまったくなかったな」と打ちのめされた経験があります。

ご紹介するのは「フロン」という本です。この本は岡田斗司夫さんという、オタキングという愛称で親しまれていて、いろんな会社を手掛けたり「いつまでもデブと思うなよ」というダイエット本を書いたりしてベストセラーになった、という経歴を持つ人です。

この「フロン」は副題が「結婚生活・19の絶対法則」となっています。さらに帯に書いてある文章が過激で、「家庭から夫をリストラせよ」とあります。ちなみにこれは2001年に出版された本で、僕もそのころ読みました。

フロンというのは語呂合わせです。婦の論であり、夫の論であり、父の論です。これらをあわせてフロンとなっています。妻であり夫であり父に対する論を岡田さんなりに書かれています。

読み始めてすぐに僕がウーンとなった言葉があります。男にとって家庭は安らぎの場ですとあります。僕も家に帰りたいという気持ちは、安らぎたい・癒されたい・ゆっくりしたいということにつながっています。一方で母親にとって家庭というものは職場ですよ、と書かれています。それがいろんな形でこの本に書かれています。さらにガツンと来た言葉があって、家庭とは育児をするための期間限定の職場であるというものでした。僕は読んだとき、とても打ちのめされました。

僕が見てきた家づくりは、こういったものでした。例えばおじいちゃんたちの代であれば、「俺の葬式ができる座敷を作るんだ」とか「立派な玄関を作るんだ」とか「立派な客間を作るんだ」ということが主でした。だから玄関に格天井を張ったり、縁側に立派な縁桁を入れたり、床柱を立派な物にすることがありました。自己実現であり、自分の権威の証明でした。

僕が家を作ろうと思った時はいつかと言うと、結婚して、ありがたいことに娘を授かって、大きくなっていって、阪神淡路大地震が来たときでした。「女房と娘を守るのは俺しかいない。家も丈夫なのに建て替えなアカン」と思って家を建てました。

でもこの本には「責任感がある父親こそ危険だ」と書かれていて、またショックを受けました。必要なのはそういうことではないんです、と。生活の場のリーダーは奥さんなんですよと書かれています。旦那さんは奥さんの庇護者じゃなくてアドバイザーになれとあります。

おすぎとピーコさんってご存知ですか?有名な兄弟で、岡田さんと親交があったようです。岡田さんはおすぎさんに「女性の気持ちになって物を見なさい」と言われたそうです。それで、特に家や家庭というものは、そうやって見ないといけないと思われたようです。

結婚生活っていろんな形態があると思いますが、そのうちの1つに子育てがあります。育児を考えることが家庭を考えることであり、家庭を考えるということが夫婦のあり方を考えることであり、夫婦のあり方を考えるということが結婚のあり方を考えることであり、結婚のあり方を考えるということが恋愛を考えるんだとあります。

この本はおじさんだけでなく、若い女性や子育てしてるお母さん、そのお母さんを支えている旦那さんや彼氏などいろんな人に読んでほしいと思って書かれているのがわかります。岡田さんは真面目な方なのだとわかります。

この本を書いた最後の結論として、子どもを育てるという役割が終わって奥さんがラクになると思っていたら、さらにその先で離婚という選択までされることが書かれています。僕はこの話を読んでいて、ものすごく重苦しい気持ちになりました。

一方で、こう思いました。権威の象徴の家というのは、子どもたちや妻を守る家とも言えるけれど、自分が安らぎを得るためだけの家という視点しかなかったのかもしれない、と感じました。育児をしている女性にとって家は職場なんだ、育児という仕事をする場なんだという視点が欠落していたなとわかったんです。

なので、僕が家づくりで家事のやりやすさについて向き合うようになったのは、この本がきっかけでした。それまでは家事のやりやすさなんて女の人が考えたほうがいいと思っていたくらい乱暴な考え方をしていました。

「フロン」は僕の家づくりに対するスタンスをかなり大きく変えてくれた本です。単に家事がラクになることを考えるだけではなく、家庭人としてのあり方まで教えてくれた、問題提起をしてくれた本です。

この本を読むと、気になることが次々と出てきます。その1つが「期間限定」という言葉です。当たり前ですが、人生というのは限られていますよね。普段は忘れてしまうことです。

翌年の2002年には、また別の本と巡り合いました。内田樹先生という方が書かれた「期間限定の思想」という本です。岡田先生の本を読んでいた僕に「期間限定」ということが刷り込まれていたのかもしれません。巡り合ってすぐに読みました。これもとても面白い本です。内田先生は神戸女学院で先生をされていたり、合気道の達人でもあったり、多芸な方です。

ライトな哲学書みたいな本で、例えば若い女性が「いい男を見つけるにはどうしたらいいですか?」とか「大人になるってどういうことですか?」「そもそも、なぜ仕事をしないといけないのですか?」ということが書かれています。

その中に内田先生のエッセイの部分がありまして、家族の持続期限という話が出てきます。これをちょっとだけ紹介させてください。

“娘が18歳になって家を出て行った。18歳になったら家を出ることと前から言い聞かせてあるので、高校2年生ぐらいから父子で過ごす時間がカウントダウンの状態になった。言い遅れましたがうちは父子家庭です。離別が近づくにつれてだんだん親子の仲が睦まじくなり、あと何週間という辺りからはさらに細やかになった。考えてみれば当然である瀕死の床にある人間に向かって、あれこれ説教して生き方を変えろなどと言う人間はいない。親子だって同じである。いつまでも一緒にいられると思うからそれぞれの人間的欠陥も目に付くし、それを補正せよという不躾な要求もつい口を衝いて出るのである。一緒に過ごす時間がわずかしかないと思えば、大抵の欠点は笑って受け入れることができる。過ぎていく時間がかけがえのないものであることも身に染みてわかる。家族は仲良く暮らすべきだと私は思っている。そして逆説的なことだが家族が仲良く暮らす秘訣は、家族とはテンポラリーなものであり一時的なものです。その構成員はいずれ離散するということを家族のみんなが、いつも意識していることだと思うのである。そのためには家族の持続時間には期限を設けてある方が良い。子離れ・親離れはそのための英知である。もし夫婦でいられる期間にも法律で上限を設けて20年夫婦をしたら、離別して以後面会は月1回までというようなことをした世の中の夫婦は一緒にいる間どれほど細やかに慈しみあうことがあろうか。”

僕は子育てをされているご夫婦のお手伝いすることが多いので、子育てをするということをなんとか一生懸命考えます。子育てというのはいつか終わるんですよね。僕は今更思い知っています。親なら子離を、子どもなら親離れというのをしないといけないなと考えたりします。

僕はこの本で内田先生にとても興味を惹かれました。どこかで「日本人が読んでおいた方がいい本はないですか?」という質問に答えていました。幸田文の「父・こんなこと」という本を紹介されています。

幸田露伴という明治の文豪がいらっしゃいました。「五重塔」や「運命」が代表作になります。その方の次女が幸田文さんになります。幸田文さんはお母さんを早く亡くされます。その後お父さんが2番目の奥さんをもらわれて、そういった状況で子ども時代を過ごしています。立派な名家に嫁いで、10年後に離婚されて、晩年のお父さんの所に戻ってくるんですね。そのときのお父さんとの交流や、お父さんとのやり取りで思い出したことを語られています。

今日は脱線した話ばかりして申し訳ないです。「父・こんなこと」の中に、“後読みそわか”というセンテンスがあります。“後読みそわか”って何か言うと幸田露伴が文さんに対して掃除の仕方をレクチャーしているエッセイになります。すごいですよ。掃除道具の選び方から始まって、それをどう使うか、どんな風にコツがあるか、なぜそれをせねばならぬかというのをものすごく事細かに文さんに伝授しています。文さんは2番目のお母さんと折り合いが悪かったんですかね。年頃だったと思うので、お父さんが女性としてのたしなみ、当時であれば生きていくためのたしなみみたいなことをすごく具体的に教えられています。

明治の文豪ですよ。僕は明治の文豪が掃除なんかすると思いませんでした。でも幸田露伴は家事のエキスパートなんです。幸田露伴は、現代風に言うと「掃除とアイロン掛けと炊事。これこそが生活の基本だ」ということを娘さんに切々と伝えています。

内田先生はこういう風に言われてます。「これは武士の生活文化なんだ」と。武士の生活文化を幸田露伴は文さんに教えているというような話でした。

ここまで話したことをまとめていきます。家を建てるのは子育てをされているご家族が多いと思います。男性側はやすらぎの場や趣味の場というのをメインに考えるかもしれません。でも家というのは、育児という奥様との共同プロジェクトをする職場という側面は絶対に忘れてほしくないです。

内田先生は離婚されて娘さんを引き取って、その娘さんは18歳の時に独立されています。こういったことを経験されている方なので、武道の達人だけど父親であり母親的なところを持っているのではないかと思います。そして元々の武士の文化とはそういうものだったというところまで行き着いたような話なんですね。もっと言うならば、内田先生は哲学者で 武道家で生活者です。

今の僕は終の住処のお手伝いをすることも多いです。ご夫婦のお話を聞いていると、旦那さんからは「趣味を楽しみたい」という意見が多く出てきます。それも良いことですが、やはり家は生活を営んでいく場でもあることを忘れてほしくないと思っています。

フロンを読んで20年が経って、自分が60歳になって、娘たちの独立も現実的になってきました。惜しくて惜しくて仕方ないですが、それがなければ彼女たちの発展はないし、僕の発展もないのだと思います。

今回の話は家を建てるということに関して何の関係があるの?と思われた方が多いと思います。内田先生がおっしゃった「家族は仲良くあるものだ」というのは、僕の人生のメインテーマでもあります。

60歳のおじさんのグダグダ話だったということでお許しいただいて、こういったことも肴に家づくりを考えていただけたらと思います。

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