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腰痛になって考えた。本当に優しい階段と手摺って何だ?

今日は、住宅設計をしているととても大事な要素になる「階段」について、本当に人に優しい階段とは何か、というお話をしていきたいと思います。ちょっとカッコよく始めましたけど、実は今、私、腰痛なんです。わかりますかね?ヘルニアとかすべり症とか、そういう類のやつで、多分、腰痛で苦しんでる方は「あ、森下さんもそうなんや」と思ってくださるかもしれません。腰が痛いだけじゃなくて、座骨神経痛と言って、背骨の中の神経が圧迫されて、腰から足にかけてビリビリと痛みが走るんです。激痛で、40分とか50分ぐらい静かに置物みたいにじっとしてないと耐えられないくらいの、そんなひどい状態でしてね。

今、僕は63歳なんですけど、なんかこう、80代になってヨロヨロしてる自分を疑似体験してるような感じなんです。体力がなくなって、よぼよぼのおじいちゃんになったらこんな感じなのかな、みたいな。でも家の現場は見に行きたいし、女房には「まだ行くん?」って怒られながらも、痛み止めを飲んで出かけたりしてるわけです。そんな中、先日、東京の三鷹にある「スミレアオイハウス」さんの家を見学させていただきました。いわゆる“九坪の家”と呼ばれている、すごくコンパクトで、極限まで設計を追求した住宅なんです。写真でも紹介してると思いますが、玄関のあたりがとても印象的で、入った瞬間の広がりが小さいのに不思議と狭く感じない。行ってみたら落ち着く空間やなぁと感動しました。

▼スミレアオイハウスを見学してきました
https://www.m-athome.co.jp/movie/sumire_aoi_house

▼「9坪の家」から「9坪の宿」になったスミレアオイハウスを訪ねて
https://www.m-athome.co.jp/movie/9tsubo_yado_sumireaoi/

でも僕が一番気になっていたのは、2階なんです。2階に上がるには階段を使いますよね。この「階段を上がる・下りる」っていうのが、座骨神経痛持ちには最もつらい動作なんです。だから「2階リビングって年を取ったら大変なんじゃない?」っていう話、よく聞きますよね。まさにそれ。でも興味が勝ちまして、このスミレアオイハウスさんの階段を上り下りしてきたんです。

もちろん痛いんですよ。でも手すりを持って一段ずつ上がっていくと、あれ?意外と楽やな、と。痛みがあまり来なかったんです。上がり切って2階を見学して、いろいろ話を聞いて、さて降りようかと思って降りていったら、これまた降りやすい。すごくスムーズに下りられたんです。関東弁で「降りやすいじゃん!」って思わず言ってしまいました。

それで気になってね、この階段はどういう寸法でできてるんやろう?って。僕ら建築屋はとにかく寸法が気になるんです。で、持ってきてたメジャーで測らせてもらいました。階段の立ち上がりから上までのスパンが大体1780ミリ、つまり約1.8メートルくらい。住宅でよくある階段のスパンは1間半(2700ミリ)くらいなんですが、これは1間で上がりきるタイプ。昔の家のようにちょっと急な階段です。

段数も11段で少なめ。普通の家だと13段とか14段ありますから、それよりも少ない。だから上がりやすかったのかもしれません。蹴上げ(1段の高さ)は約20センチ、踏面(足を乗せる部分)は16センチほど。建築基準法では踏面は15センチ以上ないとダメなんですが、それにギリギリ近い寸法なんです。つまり、数値上はちょっと急なんですよ。でも、実際に上がると不思議としんどくない。

その理由が、手すりなんです。これがとてもよくできていて、板状の手すりにちょっとした凹みがある。断面で言うと、高さが12センチほどで厚みが3センチ弱。角もやさしく面取りされていて、指をかけるとちょうどフィットする感じ。僕が左手でグッと掴んだ瞬間、「これ、力が入るな」って思いました。普通の手すりって、滑り止め程度の感覚なんですけど、これは“引っ張る”ことができる。上がるときも、手と足でバランスよく力を分散できる感じなんです。

降りるときも同じで、右手でクッと掴むと、指が自然に中に入って、グリップが効く。自分の体重を支えながら安心して下りられるんです。これ、まさに“杖”ですよ。杖があるだけでお年寄りが安心して歩けるように、この手すりがあるだけで階段の怖さがなくなるんです。

そしてもうひとつ気づいたのが、踏面の短さが逆に安心につながっていたこと。僕の足は27センチくらいなんですけど、踏面よりつま先が少し出る。その状態で、かかとがしっかり角にかかって、まるで鳥が止まり木を掴んでいるような感覚。足で階段を「掴む」ような安定感があったんです。これが思いのほか快適で、11段をスッと下りられました。

だから僕は思ったんです。こういう階段、メイン階段にするのは少し勇気がいるかもしれないけど、小屋裏収納とかロフト用の階段にはぴったりやなと。はしごだと怖いけど、この形なら軽快に上がれるし、空間の占有も少ない。小屋裏エアコンを設置してるお宅なんかでは、掃除やメンテナンスで上がる頻度も増えてますから、こういう階段があると本当に便利なんです。しかも材積が少ないから、コストも若干抑えられると思います。

そしてもう一点、このスミレアオイハウスの階段の下は玄関なんです。つまり階段の下がデッドスペースになっていない。人が通れるし、収納にもできるし、段板の裏が抜けている“ツーツー階段”なので、光や風も通る。空間を閉じないんです。これが本当に賢い設計だなと思いました。

最終的に僕が感じたのは、「人に優しい階段」というのは、単に緩やかで安全というだけじゃなく、「不安がないこと」なんだと思います。痛みがある体でも、安心して上がれる、降りられる。これが本当の意味で“優しい階段”なんじゃないかなと。

将来、もし足腰が弱くなっても、リビングにベッドを置いて1階だけで暮らすというのも自然な選択だと思うんです。だからこそ、階段スペースをコンパクトに抑えて、リビングを広く取るという考え方も一つ。今日は腰痛になったことで、改めてそういう“優しい階段”のあり方に気づいた気がします。

というわけで、本当に人に優しい階段とは何か、少しでもみなさんの家づくりの参考になれば嬉しいです。

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