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木造と鉄骨の比較:なぜ日本では木造住宅が多くなるのか?

先日、ある若いお客様とお話しする機会がありまして、その中で「日本の住宅って、昔から木造が多いけれど、これからもそうなんですか?」という質問をいただいたんです。たしかに、ハウスメーカーさんの中には鉄骨の家など、さまざまな構造の住宅を手がけておられますよね。そういった中で、「実際はどうなんですかね?」といった、ちょっとした世間話の流れで出た問いだったんですけど、その背景にはどういう意味合いがあるのかなと感じまして。今日はそのことについて、少し解説していけたらなと思います。

今回は木造と鉄骨という構造に焦点を当てて、あえて鉄筋コンクリート造(RC造)の住宅については外しています。RC造の住宅は、たとえば沖縄ではよく見られますけど、全国的にはそれほど多くないと思います。なので、木造と鉄骨という2つの構造の比較を通して、日本の住宅事情についてお話していこうかなと思います。

まず、日本でなぜ木造住宅が多かったのかというと、それはやはり歴史的な背景が大きいと思います。日本は森林が豊富な国ですから、身近な資源として木材が使われやすかったんですね。それに対して鉄鋼は、鉄鉱石を輸入して精錬する必要があるので、昔はそう簡単に使えるものではなかった。その意味で、木が生活に根ざしていたというのは、やっぱり自然な流れだったんじゃないかなと思います。

また、国づくりの中で、社寺仏閣を建てるというのは、いわば国家的なプロジェクトだったと思います。地方の豪族や自治体の長が主導して、多くの資金を投じ、腕のある技術者や職人が集まって、木造の軸組構造の技術が磨かれ、フィードバックを通じてどんどん蓄積されていったわけです。こうして育成された技術者の貯金が、今でも形を変えながら受け継がれているのではないかと思います。

そして、何より木造住宅が日本の風土に合っていたということも大きいです。日本は高温多湿ですから、木には調湿機能があり、湿度のコントロールに向いているんですよね。また、鉄骨やコンクリートに比べて、木は強度効率やコスト効率に優れている面があります。構造そのものが軽いので、基礎工事にもそれほど大掛かりなものを必要としませんし、切ったり貼ったりもしやすい。だから、間取りやデザインの自由度が高いというのも魅力です。そして何より、自然素材の温もりや癒しを好む人にとって、木の家はやっぱり特別なものだと思うんですよね。

ただ、木造住宅のデメリットが大きくクローズアップされた時期もありました。それが約30年前の阪神淡路大震災のときです。あの地震では木造住宅の被害が特に大きく、耐震性や耐火性の面で課題が浮き彫りになりました。地震で倒壊し、そのあと火災で焼けてしまったケースも多く見られましたし、倒壊の原因の一つにシロアリ被害があった例もありました。このとき、「やっぱり木造は危ないんじゃないか」といった声が広がったんです。

こういった背景から、鉄骨住宅のブレイクスルーが起こりました。「木造のデメリットを超えて、安心できる住宅は鉄骨だ」という流れができ、鉄骨系のハウスメーカーさんが一気にシェアを伸ばしていった印象があります。僕も当時、そのハウスメーカーさんの下請けをしていたので、「時代の流れはこっちに行くのかな」と感じたことを覚えています。

鉄骨の家は、構造計算によって高い耐震性が確認されているケースが多く、防火材との組み合わせで耐火性も高められるというメリットがあります。元々、鉄骨と言えば「重量鉄骨」つまりH鋼と呼ばれる分厚くて重たい構造材を使ったビルのような建築が主流だったのですが、そこに「軽量鉄骨」という発想が出てきたんですね。薄くて軽い鉄で住宅を作ればいいじゃないかと。この軽量鉄骨が、コストダウンと設計の自由度を実現する手段になりました。大量生産によるプレハブ住宅の普及とともに、それが可能になったわけです。

ただ、都市部では土地が高く、多層階建ての住宅が求められるので、3階建て以上となるとやはり鉄骨のメリットが生かされることが多いです。でも、ここで再び木造住宅のブレイクスルーが起きました。それが「プレカット」と呼ばれる技術です。木造の軸組を職人が手で刻むのではなく、工場で機械によって加工するというもので、精度も高く、金物による補強も容易になったんです。ホールダウン金物のように、強い地震力に対してもしっかりと対応できるようになりました。

現代では木造でも構造計算を行い、安全性を確認した上で住宅が建てられています。木造は軽いので、軟弱地盤の場所でもあまりコストをかけずに地盤改良や基礎工事が可能ですし、耐火構造を実現できる技術や認定制度も整備されてきています。さらに断熱・気密性能を高めようとしたとき、木造は非常に相性が良いんです。木という素材には包容力がありますし、断熱材や気密シートもきれいに納まりやすい。木自体にも一定の断熱性能がありますから、熱橋(ヒートブリッジ)も起こりにくいです。

そんな中、僕も昨年カナダを訪れまして、森林資源の豊かなカナダで「CLT(クロス・ラミネイティッド・ティンバー)」を使って大規模な木造建築を進めている現場を見てきました。高い断熱性・気密性を備えた建物づくりを目指していて、世界的にも森林資源の活用が進んでいると感じました。これがカーボンニュートラルにつながるという話にもなります。木は育つ過程でCO₂を吸収し、それが木材という形で固定化される。そして伐採された後も再植林することで、再びCO₂を吸収して成長していくという、持続可能なサイクルがあるわけです。

また、日本はこれからますます高温多湿化が進むと言われています。その中で結露対策として断熱・気密性能を高めていく必要がありますが、木造はそれに非常に適しているんです。だからこそ、鉄骨系の大手ハウスメーカーさんでさえ、一部には木造住宅の展開を持っておられる。鉄骨だけではカバーしきれない部分があるということだと思います。

たとえば個人住宅で1~3層程度の建物であれば、やはり木造の方が合理的であるという認識が広がってきているんです。そこには木造住宅の技術的なブレイクスルーが大きく影響していて、建物の寿命もこれまでの30~40年から、50年、100年と延ばしていける時代になってきています。

さらに大事なのが、「経年美化」という考え方です。鉄骨建築はできたときが最も美しい状態で、時間とともに劣化していくのに対して、木造住宅は時間が経つことで味わいが増していく。これは大きな魅力ですよね。そして、100年暮らす中でライフスタイルや家族構成も変わっていくわけですから、建物の中身を再構成する、つまりリフォームやリノベーションのしやすさという点でも木造は優れています。

最近は、以前は廃れつつあった左官屋さんの技術も見直されていて、塗りの味わいというのが再評価されています。やっぱり手仕事で塗ったものにしか出せない味というのがあるんですよね。ですから、建物の長寿命化というのは、構造や耐久性だけでなく、美観の面でも大きな意味を持っていると思います。

日本もヨーロッパのように、古い街並みを大切にし、美しい建物が立ち並ぶ国になっていけたらいいなと思っています。これからは人口も減り、経済も縮小していく中で、消耗品のような住宅ではなく、資産としての住宅をどう作っていくかが問われてくると思います。作り手も、そしてそれを引き継ぐ住まい手も、意識を持って家づくりに取り組むべきじゃないかなと。

日本の職人さんたちは、かつては安い手待ちで食べていけないといったイメージがあったかもしれませんが、今は手待ちも上がっていて、まるでマイスターのような存在になってきています。寿司職人さんが海外で活躍している例のように、手に職を持っている人は、これからのAI社会でも生きていけると思うんです。AIが文系の仕事をどんどん代替していく中で、最後に残るのはやっぱり人間の手仕事だと思うので。

だからこそ、手仕事の余地がある木造住宅は、これからも廃れることなく、むしろ価値を高めていくんじゃないかなと思います。若い技術者の皆さんも、そうした未来に向かって、ぜひ立ち向かっていってほしい。そして新たな日本の住宅様式を築いていく姿を、僕はこの目で見たいなと思っています。

おじさんもまだまだ頑張りますので、若い皆さんも一緒に、日本の住宅を次のステージへと進めていけたらと思います。

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