家づくり・家族の本音を理解する「3つの質問」
今日は家づくりをこれから真剣に始めようという時、具体的にはプランニングに入っていく場面についてお話ししたいと思います。
プランニングの時には、ご家族の意見をまとめたり、設計者がヒアリングをしたりしながら、どんな家にしていくかを絞り込んでいきますよね。例えば若いスタッフから「ヒアリングって言っても何を聞いたらいいんですか? 設計ポイントチェックリストを見ながら喋ればいいんですかね?」と聞かれることがあるんです。もちろんそれも有効なんですが、初めてやる時は悩ましいなという時に、僕はある本を思い出したんです。それが辻道坂先生が書かれた『全部絵でわかるエコハウス』という本で、以前も紹介したことがあります。この中に先生が「家族それぞれが家への思いを持っているから、それを引き出すためにはこんなことを聞いたらいいよ」と、チェックシートを作ってくださっているんです。これは本当に役に立つので、若い子たちにも紹介して「これを見てみたら?」と伝えてきました。
ただ、辻先生の提案は素晴らしいんですけど、僕的には「ここはそうは言っても難しいな」と思う部分もあって、その掘り下げ方については、営業的な分野でもよく研究されている方法が参考になると思っています。例えば渡瀬先生の本『相手が思わず本音を喋り出す3つの質問』、このエッセンスをブレンドして説明すると、若いスタッフも「なるほど!イメージができました」と喜んでくれたりするんですね。だから今日は、みなさんの家づくりにも役立つんじゃないかなと思って、そのあたりをテーマにお話させていただこうと思います。
まず基本は、ご夫婦や家族それぞれが新しい家に対して思いを持っているということ。その思いをきちんと聞いてあげることから始まります。そのうえで具体的に「吹き抜けはありかなしか」「天井は高い方がいいか低い方がいいか、それともこだわりがないか」「勾配天井は好きか嫌いか」といったイメージを聞いていく。僕たちはエコハウスを掲げているので、吹き抜けや天井高、勾配天井の有無は空調や温熱環境をつくるうえで大事な道具になります。だから最初に聞いておくのはすごく大切なんです。
それから部屋ごとの要望ですね。リビングやダイニング、子ども部屋やお父さんの部屋などをどう使いたいか。その際には照明計画も含めて、「明るい雰囲気がいいですか? それともお酒を飲む時に薄明かりの方が落ち着きますか?」「調光機能がある方がいいですか?」といったことも聞くといいでしょう。リビングは家族団欒の場なのか、テレビの前で過ごすのか、ごろごろする場所なのか、来客もあるのか。そういう使い方のイメージを共有しておくことが大事です。そして当然ダイニングとキッチンのスタイル、独立型か一体型かなども好みによって変わります。子ども部屋についても「広い方がいいか」「最低限でいいか」といった要望を聞いていきます。
外構についても早めに聞いた方がいいですね。駐車場やアプローチは後回しにせず、配置から考えることが大事。駐輪場の有無も、子どもが成長したら自転車を置くことは必ず出てきますから、最初から考えないと困ります。それに庭に欲しいもの――ウッドデッキや家庭菜園、雨水タンクなども。さらに木や花を植えるかどうかも聞いてあげたいところです。僕も60歳になって改めて思うんですが、実のなる木が家にあると楽しいんです。柑橘の実を摘んでお酒と楽しむのもいいし、孫ができたら「じーじ、あれは何の実?」と聞いてきて、そこで会話が生まれる。そんな風景は素敵やなと思うんです。
設備についても大切です。暖房は部屋ごとにつけたいか、基本はつけっぱなしがいいか、トイレや廊下も暖かくしたいか。冷房についても「できればあまりエアコンは使いたくない」という方もいます。そうすると暖房や冷房の方法――エアコンか床暖房か薪ストーブか、といった選択肢が見えてきます。給湯もガスかエコキュートかエネファームか。さらに現在の設備状況や冷蔵庫の年式も聞いておくと省エネの提案につながります。もちろん太陽光や蓄電池、太陽温水器なども検討材料です。さらに光熱費や水道代の実際の使用量を聞くことで、より具体的なプランが描けます。
そして僕が「なるほど」と思ったのが、辻先生が提案されている価値観の質問です。例えば「お風呂は家族で続けて入るか、バラバラに入るか」。これって家族ごとに習慣が違います。あるいは「ご主人の趣味は家でどんなことをしているか」「これからどんなことをやりたいか」を家族全員に聞く。そうすると旦那さんは「家でリラックスしたい」と言っても、奥さんは「洗濯を楽にしたい」といった切実な思いが出てくることもあります。それをきちんと聞いてあげることが大事です。
また、「広い家がいいのか、高性能なコンパクトな家がいいのか」という価値観。昔は広いことが正義みたいに言われましたけど、本当に必要なのかを考える機会にもなります。庭の緑や落ち葉、洗濯物を外に干すかどうか、窓のあるなし、夜に窓を開けて寝られるかどうか、カーテンの開け閉めの手間、地域の気候に合った暮らし方。こうした細かな価値観を丁寧に聞くことで、ご家族の本音が浮かび上がってきます。
ただ「夢を語ってください」と言っても、多くのご夫婦は漠然とした答えしか出てきません。夢を語るのは実はとても難しいことなんです。だからこそ、僕が大事だと思うのが「過去・現在・未来の3つの質問」です。これは渡瀬先生の本にも通じるところですが、特に過去を掘り下げるのが重要です。「小学校の頃、何に熱中してた?」「中学・高校の時はどうだった?」と夫婦で語り合うと、思い出話で盛り上がりながら、自分の原点に気づくことがあります。その流れで現在の暮らしの不便や不安を話し合い、最後に未来の夢を語る。しかも「何をやりたいか」だけでなく「何を諦めたくないか」「何を捨てたくないか」という視点で考えると、よりリアルな夢が見えてきます。
僕自身も腰痛で登山を諦めかけているけれど、「やっぱり諦めたくない」と思うと「まずは腰を治すのが夢の第一歩だ」と気づけたりするんです。そういうやり取りを家族や設計者と一緒にできたら、とても楽しいし、家づくりの真のニーズにもつながると思います。
だからこれから家づくりやリノベーションを考えている方は、ぜひご家族で過去・現在・未来の3つの質問を使って、本音を引き出し合ってみてください。そして辻先生のチェックシートも合わせて活用すると、きっと楽しい家づくりになると思います。