家を建てる時に読んでおくと良い本(堀部安嗣先生編)
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今回は、家を建てる時に読んでおくと良い本として、堀部安嗣先生の「住まいの基本を考える」をご紹介します。
堀部安嗣先生は、知る人ぞ知る素晴らしい建築家で、いろんなものを設計されています。生まれは1967年、神奈川県横浜市生まれです。筑波大学の芸術専門学群環境デザインコースを出られて、今は京都造形芸術大学の大学院の教授でいらっしゃいます。
2002年には「牛久のギャラリー」で吉岡賞を取られ、2016年には高知県の「竹林寺納骨堂」で日本建築学会賞を取られました。最近では、2017年に豪華客船ガンツウのデザイン・設計もなさっています。深みのある建築で、後ろにすごい哲学があるんだろうと思う感じです。
私が初めて実物を見たのは、2016年の里山住宅博という企画の「ヴァンガードハウス」というお家です。見た瞬間に渋いと感じ、だんだん圧倒されるような、パッと見よりジワジワくるような、そんなお家でした。
この本は、以下の6つの章で構成されています。
まずは「進化した巣の姿」について『厳しい自然の脅威に対して動物は巣を作る。でも人間はただの巣ではなく、安定して安心できる場所を求め、家を考え、建築した。』とあります。
そして、私が一番シビれたのは次の内容です。
『例えば美術館・市役所などは「行く」と言う。でも家は「帰る」と言う。行く・行かないは選択できるけど、帰ることは選択できない。否が応でも戻らないといけないという、そんな人の精神状態に対して、家は寛容・優しいものでないといけないのではないか。』
随分抽象的・哲学的と感じるかもしれませんが、私は「帰ってくるところ」と思うと、すごく考えさせられる感じがしました。
次に、「小さな家の魅力」についてです。多くの人が家の建築を考えるときに、そこに暮らす家族の最大人数を考えて家を作ります。でも、やるせないけど家族はどんどん減っていきます。子どもは独立し、親は順番で亡くなり、夫婦はどっちかが先に逝き、いつか1人になります。ある意味辛すぎる現実ですが、そういうものです。
そんな中で、今まで建てた家は性能が低くて大きすぎる家が多いことを挙げています。そういう家は次世代が引き継ぐ気持ちにならず、循環していかない・継承されないとおっしゃっています。
そして『住宅は数人で暮らして窮屈じゃなければいい。』と言われています。そこで基準になるのが、100㎡前後です。これは戦時中に建てた家にあった「30坪以内」という規制(30坪を㎡で置き換えたら100㎡)から来ています。
小さい家については、次のようにおっしゃっています。
『小さい家はイニシャルコストも抑えられるし、隣家との間隔・道路に対しての圧迫感が和らぐし、周囲の日照も損なわないし、風も通す。境界と建物との間には、木が植えられる。良いプランニング(平面計画)には、狭いところも広いところも、明るいところも暗いところも、そして、動きのあるところも静かなところもある。』
そして、確信を持って次のように言われています。これが今回ご紹介したかった1つの大きな要素です。
『動線計画が練れているかが重要。これが上手にできれば、廊下を少なくでき、小さい家でも広々した家ができる。』
3つ目に「パッシブな家」についてです。堀部先生は『パッシブこそ情緒的。気候風土を無視して、機械の力で強引にねじ伏せたような建築デザインは、住まい手も建築自身も疲れさせる。』と言われています。
また、『日本の優れた伝統デザインこそパッシブだ。例えば、冬の日射取得・夏の日射遮蔽・通風・防湿・蓄熱。そういうデザインの基本が、かつての日本の様式の中にある。』とおっしゃっています。
そして次に、本質的な話で「本当の財産価値とは何か」が続きます。ここでは『最も価値ある財産的なものは、利他的な家』とおっしゃっています。
ここではすごく象徴的なエピソードがあります。堀部先生のご友人がマンションを買われて、そのお家に遊びに行った時のことです。ご友人がマンションの気に入っているポイントについて「見てくれ、この目の前にある木造住宅。甍(いらか)が立派で、松の木が見事だろう。この前の家の素晴らしい佇まいがすごく気に入ってるんだ。その風景を借景してできてるこのマンションは最高なんだ」と言ったそうです。
しかし、2年後に行かれた時には、立派だった木造の屋敷が解体されて、味も素っ気もない白い小さい家が並んでいたそうです。ご友人は「この白い箱を3〜4つ並べられた感じ。見てくれ、1本の木も植わってない。この前俺は「借景」と言った。よその人のものを借りて、良かったと言ってたけど、借りたものは返さなアカンねやな。借りたものを返さなかったら、こうなってまうんやな。自分の住まいとは利己的なものと思いがちだけど、本当に価値のあるものは利他的なものなんだとすごく思った」と言ったそうです。
先生はそれを受けて『過去から未来を繋いでいく要素がある家が、財産価値がある』と言われています。ネイティブインディアンの言葉で「土地は親から与えられたものではない、子どもたちから借りているものだ」という、素敵な教えがあるそうです。そんな風に、これから建てようとするお家は子どもたちから借りて建てるものだという感覚がある家ができたとしたら、それは素晴らしい財産だとおっしゃっています。
そして、『本当の財産とは、日本人にとっての白米とお味噌汁みたいなもの』とも言っています。例えば、コンクリートの築50年ぐらいの家は、自然や風土に晒されて、脆弱なまでにあらわな姿になっています。一方、木造の家はそんな風になってない家が多いです。また、例えば杉の板はどこでも買えるし、決して高いものじゃないけど、床に杉の厚い板を使ったら腰痛や冷え性が治ったり、梅雨時は調湿効果でジメジメしなくなったり、冬は冬で温かみを感じて、暖房しなくても暖かいみたいなこともあります。このように『経済的価値では高いようなものより、安価にすぐ目の前にあるものを使った方が、実はとても財産価値があることがないか』と言われています。
次に「住宅の寿命」です。ここではアメリカの作家のステュアート・ブランドさんの「建築はいかにして学ぶか」という本から「6つのS層」を紹介されて、Site(敷地)、Structure(構造)、Skin(外装)、Services(設備)、Spaceplan(空間設計)、Stuff(家具調度)の、6つの視点で考えるべきと言われています。
まず、敷地が何より最も寿命の長いもので、すごく鍵だとおっしゃっています。例えば、地震に強い家を考えた時に、一番は地震に強い地盤のところに家を家建てるべきだとか、夏涼しくて冬暖かい家を求めるならば、日当たりがよくて風通しの良い場所を選ぶべき、ということです。
これは私の勝手な解釈ですが、日本は市街地がどんどん膨張していったんです。田畑を埋め立て、山を切り取り、無理して住む所を広げてきました。でもこの先は、人口は減っていきます。人が一番最初に選んだところに帰ってくるうねりが加速します。その時に、そもそも人間が長く暮らしてきた所に目を向けてみてもいいと、先生はそんなことをおっしゃってるのかな、と思ったりしました。
そして構造に関しては、木造住宅はすごくいいと書かれています。木造住宅は、これまで大きな地震を3つぐらい経験した中で、すごく構造的によくなったんです。2×4工法という面で構造の耐久性を上げるという手法で、日本の古来の軸組みに面材を使うというハイブリッド工法になっているんです。堀部先生は『木造は工法としては融合が終わり、完成形になっている。木造住宅は断熱・気密もすごく有利に作りやすい。住宅はまず木造から入るべき』とおっしゃっています。
外装に関しても、杉板や塗り壁など「自然素材による外壁」がいいと語られてます。『塗り材や木質系の壁は、花に例えたら生花だ。それに比べて、自然と全く繋がりがない色・模様のサイディングは、まるで造花のようなものだ。』と言われています。
例えば家に花を飾るなら、私は造花より生の花が好きです。生花が故の面倒くささもあるけど、枯れていくことも含めてすごく素敵だと思います。枯れていくものに手を入れて、綺麗にしている母の姿を見て、父は「家に花を飾っているのはええな」と言っていました。それを横で聞いて育った私からすると、この例えはとてもしっくりきました。
また、さっきのパッシブの家でもありましたが、日本の気候風土に照らして、軒が出ている屋根を使うと、雨掛かりが少なくなってトータルで耐久性を上げていくし、味わいを担保できることもあります。
設備は、直して使っていく・交換していく前提だから、メンテのしやすさが重要だと言われています。
そして私が一番グッときたのは、空間設計についてです。『間仕切りは、壊すところの壁はあらかじめ想定しろ』とあります。家族が変わると、この間仕切りは要る・要らない問題が出てきます、その時に、この間仕切りを外したら家が崩れるという壁は外せません。そういうことを考えることは、寿命を考えたら非常に重要だと言います。
最後に家具は、『本当にいい家具は家より寿命が長い』とあります。ヨーロッパでは、親子3代どころか何百年なんて家具が、いまだに使われたりしています。その分、家具はおざなりになりやすいそうです。いい家具は高すぎて使わないから、その辺で買って消耗品のように使ってしまうけど、『本当にいい家具が住宅の寿命を支えるんじゃないか』と言われています。
そして最後に「懐かしい未来に向けて」です。この言葉が、私はとっても印象に残ったんです。ここではこんな話が書かれています。RC造の団地に生まれて、そこから出たことがない子どもが、田舎のおじいちゃん・おばあちゃんの家に初めて行った時、初めて来たけど懐かしく感じることがあるそうです。
『場所・空間において、新しさは懐かしさと隣り合わせだ。』と深いことをおっしゃっています。そして日本は『高度経済成長の時に、変えるべきものと変えなくていいものの整理がないまま、家を作ってきたのではないか。』と言われています。そこを整理して建てるのが、人口が減っていく時に考える家づくりです。新しいものを建てるんだけど、懐かしさに向かうという感じです。ここでは『過去を踏まえて、未来を考えていく家づくり』とおっしゃっています。
先生はこの本で、非常に示唆に富むことをおっしゃっています。ぜひこの本を読んでいただいて、みなさんの家づくりがより味わい深いものになることに利用してもらえたらと思います。
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