メニュー
見学する
参加する
資料請求
採用情報

Movie

トップページ / 動画 / 初心者の方におすすめ / 大工の言葉を考える「縄張りについて」

大工の言葉を考える「縄張りについて」

大工さんがよく使っていた言葉で、今も建築の世界で使われているものがあります。ちょっと古めかしいんだけど、一般的に使われている言葉以上の意味合いを感じることが時々あるんです。今日は建築大好きおじさんとして、その辺のことをネタに話をしていけたらいいなと思っています。今回は「縄張り」という言葉について紐解いていきます。

縄張りという言葉は、縄張り争いなどと日常的によく使いますよね。これは元々、建築用語として始まったと聞いています。「縄」という字もなかなか難しい漢字ですし、日常ではあまり使わないと思うんですが、一般的な意味を解説すると、こうやって杭を建物の中心に打って、それに縄を張る。地面に縄を張って建物の位置を決める、その行為全般を縄張りと言うことが多いです。我々も建物の工事が始まる時には、地鎮祭の前後に「ここに建物が建ちますので、ちょっと見ていてくださいね」という感じで始めていきます。

僕は元々、親父も大工、曽祖父も大工という大工の家系なので、いろいろ言っているのを門前の小僧みたいにボーッと聞いていました。それ以外で縄張りという言葉を強く意識したのは、戦国武将たちの物語です。戦国大名は軍事的拡張をしていく時に、各地の軍事拠点として城を作るじゃないですか。黒田官兵衛みたいな軍師を呼んできて、「城の縄張りをして来い!」と言ったら、「御意!」と軍師が答えて実際にやるわけです。

その時の縄張りというのは、まだ何もないところに行って縄を張って来いという意味です。でもそれは単に縄を張ることではなくて、お城のマスタープラン、設計そのもののことを縄張りと呼んでいたんですね。もっと言うなら、グランドデザインぐらいスケールの大きなものだったと思います。縄を張るというのはすごく原始的なんですけど、ものすごく大事なんです。

昔、豊臣秀吉が木下藤吉郎の時代に太閤検地をやりました。縄を使って田畑を測り、この国の経済的規模はどれぐらいなのかを考えた。日本地図を作った伊能忠敬も、歩いて縄を使って壮大な測量を達成したと言われています。つまり縄張りというのは原始的なんだけど、ものすごく力がある意味合いの言葉なんです。

僕の曽祖父も、爺ちゃんも、親父も大工でした。小さい頃は爺ちゃんの刻み小屋のそばに家があったので、毎朝そこへ出勤していたような子どもでした。門前の小僧みたいに、お爺さんたちがいろいろ言っているのを何となく聞いていた記憶があります。当時の大工の設計図というのは、板にさしがねと墨壺で中心線を書いて、「イの1番」「ホの7番」みたいに墨を打ちながら軸組を刻み、原寸で展開していくような世界でした。これが大工にとっての設計図なんだなと思っていたんです。

でも、それよりもっと大事なことがあるんだと言っていた。「そういうことを書く前に、どこで建てさせてもらうのか。そこへ縄を張ってこい」という感じなんです。刻みで失敗することももちろんある。でも、そもそもの敷地の読み違いで「それじゃアカンかった」ということもある。それが一番取り返しがつかないというニュアンスのことを言っていました。記憶が混ざっているかもしれませんが、そんな話をしていた気がします。

縄張りというのは簡単に張れるようで張れない。弟子に「やっとけ」と言うようなものじゃなくて、一番経験も技術もある人間が見極めなアカンものなんです。戦国時代の縄張りも、自分たちの牙城を作るためのグランドデザインです。殿の方向性を理解し、「縄を張って現状を見てきました」と提案できるぐらいの力量が必要だった。そこで初めて大工の棟梁たちが動員されていく。だから、おろそかにしたらアカンのやと思うんです。

大工言葉って面白いですよね、と若い人やお客さんによく言われます。いろいろ喋っていたら、縄張りに関連して強烈に思い出した人がいるんです。建築家・安藤忠雄先生です。

安藤忠雄先生は、日本で今生きておられる建築家の中でもカリスマ的存在ですよね。住吉の長屋という、とんでもないコンパクト住宅を世に出した人ですし、僕が住んでいる姫路にも安藤先生設計の姫路文学館があります。すごく身近に感じる建築家なんです。先生はボクサー上がりで、独学で建築を学んだ方。ものすごく肉体的な人なんですよね。

昔、生の安藤先生を見に行ったことがあります。かぶりつくように話を聞いたんですが、強烈な人でした。迫力があって、ガーッと言い放つような感じで、「すごいな」と思いました。その時に先生が語っていたのが、六甲の集合住宅の話だったんです。

1978年、クライアントから「六甲山の麓で分譲住宅をやりたい」と相談を受けた安藤先生は、すぐ山へ行ったらしいんです。すると、とんでもない崖地だった。クライアントは「あの崖は使いようがないから、避けた平らな場所に集合住宅を建ててくれたらいい」と言った。でも安藤先生は、「それはおかしいでしょ。あの断崖を利用しないわけにはいかないでしょう」と言ったそうです。

普通、施主さんにそんなこと言えるかと思いますよね。でも先生は、「断崖絶壁を利用して、それに合った建物を建てましょう」と提案した。建築費もかかるし難しいと言われても、「もったいないですよ」と押し切った。そして実際に建てたんです。

その時、先生はポールみたいなものを持って行って、学生か弟子かわからない人たちを連れて、山の中で蜘蛛の巣を張るように縄を張り、高低差を測ったそうなんです。それを聞いて、「安藤忠雄も縄張りをするんだな」と思いました。

僕も若い頃、先輩たちに「しっかり張らんかい!」と言われました。「高低差なんてお客さんはわからないんだから、ちゃんと水平を出して、こんな段差があるんですよって伝えなアカンやろ!」と怒られたりもした。爺ちゃんたちの話と、安藤先生のエネルギッシュな話が、自分の中で繋がった気がしたんです。

今の縄張りというのは、設計図もできて、工事が始まる前に「こんな感じですわ」とお施主さんに見せる、ある意味確認作業みたいな意味合いもあります。でも本来は、一番最初にするべきことなんです。

GoogleEarthって便利ですよね。僕も使います。でも若い子が「この敷地は高低差がありますね」とGoogleEarthだけ見て言うことがある。それだけでいいのかなと思うんです。本当に建物を考える時は、自分の身で行く。高低差があったら登ってみる。景色がいいなら眺めてみる。どれぐらいの高低差なんだろうと思ったら縄を張ってみる。平面だけじゃなく、立体的にも感じてみる。そうやって腹落ちした方が絶対いいと思うんです。

地面が平らに見えても、ちゃんと測ると20cmぐらいの高低差なんてざらにあります。20cmって結構大きいですよね。しかも木造住宅なら、1階の床は地面から60cmぐらい上がる。地面で見る世界と、60cm上から見る世界はちょっと違うんです。さらに道路との高低差が1〜2mあると、アプローチの取り方一つで印象は全然変わります。急すぎるとか、狭すぎるとか、そういう問題が出てくる。

建築を始めて1〜2年の子が、本当にそこまでわかっているかというと怪しいと思います。僕もそういう時代を経て、先輩に小突かれながら育てられました。そして今は、自分が若い子にギャーギャー言う側になっている。山下社長なんかも、昔は面倒くさそうに見ていたのに、今は同じようにガーッと言っています。そういうことも含めて縄張りなんじゃないかなと思うんです。

たかが縄張り、されど縄張り。今はAIやGoogleEarthみたいな便利なものがあって、生産性を重視する流れがあります。でも家は何十年も住むものです。だから最初にその土地を感じるということを、やっぱり大事にしてほしいなと思います。

安藤先生の、人を射抜くような鋭い目。あの人は何を見ているんだろうと思うんです。評価も賛否もいろいろある人だけど、人の心を鷲掴みにして離さない秘密が、きっとそういうところにあるんじゃないかなと思ったりします。

好きな人の話だから力強く語ってしまいましたけど、大工の言葉が今も残っているということは、それだけ意味があるということです。なので縄張りというものを入り口にして、ご自分たちの家づくりを考えていただくと、ちょっと楽しくなるかなと思いました。

家づくりのことなら、なんでもお気軽にご相談ください
お電話でのお問い合わせ
受付時間 9:00〜18:00 【水曜定休】