Z世代に贈る。「間違いだらけの省エネ住宅」を再読する。
今日は師匠である松尾先生が新たに本を出されましたので、その紹介をしたいと思います。特に今回は、いわゆるZ世代の若者たちに向けて紹介したいんです。なぜそう思うのか、その理由を少しお話ししていきます。
僕ももう63歳、昭和のおじいちゃんですから、Z世代の人と話すと本当に眩しいんです。娘と同じくらいの年頃の子たちなので、別に仲が悪いわけではないんですけど、やっぱり自分の子どもとは違って、よそのお子さんとしてすくすく育った若者を見ると、「ああ…」と改めて感じるところがあります。Z世代とは一般的に、1990年代後半から2010年の前半ぐらいに生まれた方たちを指すと言われていて、今は2025年ですから、だいたい15歳から30歳ぐらいの世代になります。彼ら彼女らと話していて思うのは、本当に賢いということ。そして特に感じるのは、正しく生きることに対して非常に意識的で、しかも意図的であるということです。
よくZ世代はデジタルネイティブやSNSネイティブ、多様性を重視する世代だと言われます。昭和世代は「外国人だからこうだ」とか「LGBTはどうだ」といった決めつけをしがちですが、Z世代にはそういう垣根があまりなく、多様性を認めながらよりよく生きようとする気持ちが強いんですね。社会問題にも関心が高く、効率性や合理性についても非常にシビアで、よく考えています。だからといってドライなのかと言えばそうではなく、仲間意識も強い。さらに持続可能性、いわゆるサステナビリティにも関心が高く、社会に貢献する消費を心がける姿勢が見られます。そして何より驚かされるのは、統計的に見ても、二世代前のX世代に比べて将来への見通しがポジティブだということです。
今の言い方で言うと、「現在の幸せをとても大事にして、それを楽しむ」たおやかさがある。僕が先日紹介した「ようやく妻が死んでくれた」というペコリーさんの動画では、未来のために今を我慢してきたけれど、振り返れば一緒に頑張っていたその時こそが幸せだったと70代で悟られたという話がありました。ところがZ世代は、それを自然に理解しているんです。だからワークライフバランスにも敏感で、働くことよりも今の瞬間のプライベートを大事にします。一方で、稼ぐことや投資、運用にも積極的で、勉強熱心。僕の若い頃は貯金もせずに浪費していたバカアンちゃんでしたから、本当に尊敬します。また、東南アジアなどで製造技術が向上し、品質の良いものが安く入ってくる環境で育ったので、ブランドよりもコスパと品質のバランスを見極める目が肥えているのも特徴です。
そんな尊敬すべき彼らに対して、僕が最近少し心配していることがあります。それは「タイパ」や「コスパ」を重視するあまり、面倒くさくないことを優先して“ファスト住宅”を選ぶ傾向があるという点です。ここで言うファスト住宅は、昔のローコスト住宅とは違い、ある程度ちゃんとした作り込みはあるけれど、コスパ重視で選ばれる住宅のことです。この傾向に対して、「こんな考え方もあるよ」ということをZ世代の皆さんに知ってほしい。そのきっかけとして、今回の松尾先生の新刊を紹介したいんです。
松尾先生は、この本に「失敗が許されない高い買い物のための理論武装の一冊」という副題を付けられています。これは、僕がZ世代に抱く危惧と松尾先生の問題意識が一致していると感じました。先生は2003年頃から、「健康で快適な省エネ住宅を経済的に実現する」という理念を持ち続けてこられ、2015年に僕と出会いました。その出会いは、僕の家づくりの方向性を大きく変えるきっかけになりました。そして2017年には『本当は安いエコハウス』を出版され、住宅業界に大きな影響を与えました。さらに2020年には、そのリメイク版として『間違いだらけの省エネ住宅』を刊行。技術の進歩や新たな問題点に対する回答がまとめられています。
当時の『本当は安いエコハウス』は、「エコハウスは高い」という常識を覆す本でした。G2グレード、耐震等級3、C値1以下の家を建てれば、快適で経済的な住宅になるという主張は、多くの住宅会社を動かしました。その結果、今やそれらの性能は“当たり前”になりました。しかし先生は、性能を満たしているのに快適でも経済的でもない家が増えていることを危惧され、今回の本を書かれたんです。原因は、冬の日射取得や夏の日射遮蔽が不十分であったり、適切な冷暖房計画や設備選定、施工・チェックができていないこと。つまりスペックだけではダメで、設計や施工の質が伴わないと本当の快適さは得られないということです。
この本は、そうした本質的な部分をしっかり理解して、失敗しないための理論武装をしてほしいという思いで書かれています。Z世代の皆さんは勉強熱心ですが、タイパやコスパだけを優先すると、こうした落とし穴にはまる可能性もある。だからこそ、この本を読んで、自分たちの家づくりを確かなものにしてほしいと思います。特に中古住宅を購入してリノベーションしようと考えている人にも役立つ内容です。ただ安く買える家を選ぶのではなく、しっかりと価値ある家を手にしてほしいですね。