覚えると楽しくなる建築現場用語
今日はちょっと専門的な話になるかもしれませんが、これから家づくりをされる方にとって、知っておくと家づくりがもっと楽しくなるような、建築の現場ならではの用語について、解説をしていきたいと思います。
というのも、最近うちの会社でも若い現場監督さんが増えてまして、その子たちと話していると、「みつけってどれぐらいあんの?」と僕が聞いた時に、「みつけ?」って顔をされたんですね。それを見て、「えっ、みつけ分からへんの?」と驚いたんですが、その時ふと、あのあたりの言葉をすごく上手に解説されていた方がいたなぁと思い出しまして。それが増田進先生の『そもそもこうだよ住宅設計』という本なんです。
いきなり話が松尾先生になりますけど、『住まいの解剖図鑑』っていう本、伝説的とまでは言いませんが、本当に名著で、設計とか施工に携わる人にはぜひ読んでもらいたい内容です。僕もファンなんですけど、その次の本に、現場用語の解説があって、それがとても秀逸なんです。なので今回は、その受け売りも少ししつつ、僕なりの解説も交えながら、お話ししていこうと思います。
現場では、僕らが何気なく使ってしまっている言葉があるんですが、それをお施主さんに説明する時に、意味がうまく伝わっていないことがあって、なんだか申し訳ないなぁと思うこともあります。ですから、こうした用語の補足を知っておかれると、お施主さんももっと家づくりが楽しくなるんじゃないかなと思ってるんです。
まずは図面を書いたら必ず寸法を入れるんですが、「ここからここが何ミリ」というように、僕らは基本的にミリ単位で表記することが多いです。たとえば、300ミリって聞いたら、30センチですよね。そういうふうに寸法を記載する際にも、言葉のルールというものがあって、それをまずご紹介します。
寸法には「外寸」と「内寸」という考え方があります。建物を設計する時、僕たち設計者は、たとえば平面図でいうと、まず建物の中心寸法というのを入れます。壁って130ミリとか150ミリぐらいの厚みがあるんですが、そのほぼ中心に来る基準の寸法を「中心線」と言いまして、その線を基準に寸法を取る癖があるんですね。
たとえば壁が2つあったら、その中心線と中心線の距離のことを「芯芯(しんしん)」と言います。鉛筆の芯の「芯」と書いて「芯芯」です。現場では「芯芯なんぼで押さえたらええんや」とか「芯芯ってなんぼあるの?」といった会話になります。学生さんなんかだと、最初は「芯芯?」って戸惑うかもしれません。
そして、壁と壁があって、その内側の寸法のことを「内のり」と言います。「内法」と書いて「うちのり」と読むんですね。反対に、棚なんかを作る時、外側の寸法、つまり一番外のところを「外寸」と言って、「外外でなんぼ?」とかいう言い方もします。また、「内寸」「内内」「有効寸法」なんていう呼び方もあって、それぞれの文脈で使い分けられています。
こういう寸法のやり取りを知っておいてもらうと良いと思います。というのも、間取りを詰めていく中で、絶対に聞かなあかん質問があって、それが「家具の寸法を測っといてもらえますか?」ということなんです。この「家具の寸法」というのは、かたい言い方をすると「立体寸法を取ってきてください」ということになります。
そこで、お客さんが「寸法を測ってきました」と言ってくださるんですが、その寸法を見て「これはどういうことかな?」と悩む時があるんです。これは、お客さんと僕らで寸法の読み解き方のルールが一致してないからなんですね。
たとえば、長方体とか立方体のような箱があったとします。その箱を正面から見た時、その横幅のことを「幅(ワイド)」と言います。奥行きがあるので「奥行き(デプス)」、高さは「ハイト」です。英語ではそれぞれW(ワイド)、D(デプス)、H(ハイト)と表記され、この順番で寸法を記載するのが一般的です。
たとえば、300W×250D×120Hというと、幅が30センチ、奥行きが25センチ、高さが12センチという意味です。でも冷蔵庫のような家電だと、幅と奥行きが似たような寸法のものもあるので、順番を決めておかないと混乱のもとになります。
棒状のものになると、幅ではなく「長さ(Length)」が最初にきます。そして「幅(W)」と「厚み(T:thickness)」で表します。たとえば、300L×30W×10Tというと、長さ30センチ、幅3センチ、厚み1センチということになります。合板などでも「12Tで収めて」と言うと、12ミリの厚みの板を意味するわけです。
こうした表記ルールを知っておかれると、寸法に関する確認ややり取りがとてもスムーズになります。設計をする人間にとっては必須の知識です。だから「うちの設計の影山さんなんかは、お客さんに『家具の寸法を取ってきてくださいね、WDHでお願いします』と優しく説明してます」とお伝えしておきます。でも、説明を省略しがちな若い設計の男の子なんかだと、「向きがどっちやねん」みたいに混乱することもあるので、そのへん知っておかれると、やり取りがスムーズになると思います。
さて、少し脱線しますが、今は基本的にミリ表記が主流です。でも以前の日本では「尺貫法(しゃっかんほう)」という単位が使われていました。たとえば「一広(ひとひろ)」という単位があって、人が両手を広げたくらいの幅で、大体181センチぐらいです。
そして「1尺」は30.3センチ。「3尺」で畳の幅になります。その10分の1が「1寸(いっすん)」で約3センチ。「一寸法師」って童話がありますけど、あれは3センチぐらいの小さい人って意味なんですね。さらにその10分の1が「1分(いちぶ)」で、これは「1分の隙もない」といった表現にも使われます。
いまだにベテランの大工さんから「これ何寸で納めるんや?」と聞かれて、若い監督が「何寸って…?」ってなることもあります。若い子の持ってるメジャーにはミリしか書いてないんですよね。昔の大工さんの道具には尺とミリが両方刻んであるんですけど、そういうところも面白いです。
ちなみに「鯨尺(くじらじゃく)」というのもありまして、これは和装の裁断用の寸法で、通常の尺より広いのかと思いきや全く別の話なんです。僕も最初は知りませんでしたが、若い子に「鯨尺って知ってる?」ってからかうネタにしてます(笑)。
そして次に、建物の「高さ」の話に移ります。「F」という記号が出てきたら、それは断面図で使うもので、まず「GL(グランドライン)」というのがあります。これは地盤の高さを基準にするラインです。そこから「1FL(ファーストフロアライン)」、つまり1階の床の高さ。そして2階なら「2FL」、屋根の梁の上を「RFL(ルーフフロアライン)」と言います。
それから「天井高」は「CH(シーリングハイト)」で表されます。たとえば「2400CH」なら天井高が2.4メートル。これを知っておかれると、図面を見る時にも理解しやすいと思います。
このあとも「ゾロ」や「チリ」など、現場でよく使われる用語の解説が続きますが、これらについても一緒に見ていきましょう。
承知しました。それでは続きを整形していきます。
さて、次は「ゾロ」とか「チリ」っていう、職人さんや僕ら設計者がやり取りで使う言葉についてお話ししていきます。たとえば、柱とか枠といった縦の材料があって、そこに横の部材、つまり横紋がくっついてくるときに、この2つの部材の厚みがピタッと揃ってると、表面がつるんと一体になって見えますよね。これを「ゾロ」って言います。「ゾロ目」の「ゾロ」だと思ってください。面が揃ってる、つまり「面一(めんいち)」とも言ったりします。「面いちで仕上げて」っていう感じですね。
一方で、この縦と横の材料に段差をつけて、少しだけ控えるように仕上げることもあります。これが「チリをとる」とか「チリを持たせる」といった表現になります。このチリがあると、細工が難しくなるんですが、見た目にはちょっと豪華に見えるんですよね。最近は床柱を立てるような家も減ってきましたけど、意匠的に柱を3本並べるとか、面白いことしたいという方も増えていて、そんな時に知っておくと役立つのが「面革柱(めんかわばしら)」です。
面革柱というのは、角がピュッと面取りされている柱のことで、四角い柱の角を少しだけ落としてある、いわば八角に近いような仕上がりです。現物を見るとよく分かるんですが、これがまた上品な印象を与えてくれるんですね。
この柱に、枠材や横紋をつける時にもいくつか収め方があります。たとえば、柱の面より外に出す収まりを「面外(めんそと)」と言い、面取りしたところのちょうど中間くらいで止めるのを「面中(めんなか)」、柱の面からはみ出さずにきっちり収めるのを「面内(めんうち)」と言います。この違いで印象も大きく変わりますから、知っておかれると面白いですよ。
それから、板同士の継ぎ方にも種類があります。「突きつけ仕上げ」というのは、板と板をぴったりくっつけて隙間をつくらない方法です。これ、木は反ったり縮んだりするので、めちゃくちゃ難しいんです。大工さん泣かせとも言えます。でも、この突きつけで綺麗に仕上がっていると、かなり気合を入れて施工してくれたんやなって分かるんです。
一方で、「目透かし(めすかし)」というのは、あえて3ミリとか5ミリくらい隙間を開けておく仕上げ方です。この隙間の奥に目地材を打っておくんですね。そうすると、木が伸びたり縮んだりしても、そこまで目立ちません。天井と壁の取り合いなんかでも目透かしを使うことがあって、下から見たときに奥に影ができて、シャープな印象になるんです。いわば「奥ゆかしい和風」といった感じです。
余談ですが、最近ではラワンベニヤなんかを天井に貼る場合、この突きつけでいくか目透かしでいくかという判断も必要になります。あるお宅では、大工さんが貼る前にいったん板の端をスパッと切り直して、綺麗な角度を出してから貼ってくれてました。これ、すごく丁寧な仕事なんですよ。そんなふうにやってくれると、「ああ、この大工さん、しっかりしてくれてるなぁ」と嬉しくなると思うんです。
ただ、「うちの大工さんは切ってへんかった」とか言わんといてくださいね(笑)。これは決まりごとではなくて、ひと手間かけてくれたというだけの話です。そういうところに気づいてあげると、職人さんも嬉しいと思いますし、自分の家に対する見方も少し変わってくるんじゃないかなと思うんです。
次は、開口部まわりの「故障(こしょう)」と呼ばれる部分について。たとえば壁の中に窓の枠を取り付ける時に、「見つけ」という言葉が出てきます。これは、表面的に見えている部分の幅のことを言うんです。見つけが細いとシャープな印象になりますし、太いと重厚感が出ます。どちらが良いというよりも、デザインの方向性に合わせて決めていくことになります。
それと、「見込み」というのは、開口部の奥行きのことです。「この窓、見込みはどれぐらいで見たらええんや?」という感じで使います。さらに、壁からどれぐらい枠が入り込んでいるかという寸法を「抱き寸法」と言います。そして、建具が壁より少し飛び出ること、これも「チリ」と言います。逆に「面いち」にするということは、チリをとらないということです。チリが3ミリくらいあると、綺麗に見える場合もあります。
そのうえで、こうした部分の名前や見方を知っておくと、自分の家の書斎なんかで、窓まわりの見つけや見込み寸法にこだわることができて、より満足度の高い空間になると思うんです。
さらに、四方枠の納め方で、たとえば縦と横の部材の接合部を45度に切って納めることを「止め(とめ)」と言います。「止め仕上げ」です。これがきれいに合ってないと隙間ができてしまうんです。昔の大工さんは、止めがきちっと合うかどうかで腕を見られてたんですね。今は道具が進化して、精度も上がってきてますけど、やっぱり仕上げに気を配っているかどうかは、職人さんの気持ちの問題でもあります。
あとは「縦勝ち」「横勝ち」という言葉もあります。縦材が優先されていて、横材がそれに乗っかるような納まりを「縦勝ち」、逆を「横勝ち」と言います。全部縦勝ちにしたらええやん、という声もあるんですけど、それぞれに理由があって、打ち障子の枠なんかでは両方縦勝ちにして、といった要望もあったりします。
大工さんによっては、この縦をさらに突き出して仕上げたいというこだわりがあって、その出る寸法や形を「角出し」と言います。角出しにこだわる大工さんもいて、昔ながらの和風建築にはそうした納まりが好まれることもあります。
最後に、木の材には「正目(まさめ)」という木目があって、切り口を「小口(こぐち)」と言います。この小口を見せるか見せないかによっても、印象が全然変わってくるんです。見せたくない時は「止め加工」で隠す。でも縦勝ちや横勝ちで納めると、小口が見えてきます。この小口をどう見せるかというのも、デザインの一部なんですね。
さっき出てきた「見つけ」と「見込み」も、断面図で見るとよりわかりやすいんですが、縦の枠を正面から見た時の幅が「見つけ」、奥行き方向の寸法が「見込み」です。そして、この枠が壁より少し出ていると、壁紙や塗り壁が傷みにくいというメリットもあります。だから「チリ」って大事なんです。出すぎるとやぼったくなるし、少なすぎると納まりが悪い。そのあたりも含めて、知っておいてもらえると面白いと思います。
こういう建築の現場用語、全部覚えようとしなくてもいいんですが、「こういう考え方があるんだな」と知っておくだけでも、内装の仕上がりがガラッと変わりますし、家づくりがもっと楽しくなると思います。
あわせて、松尾先生の本は本当に参考になりますので、これから家づくりをする方、あるいは設計を志す若い人も、ぜひ一度読んでみてください。