Q&A:南側にすぐ隣家があります。この場合でも南リビングでしょうか?
今日もお客様の方からいただいた思いのある質問に対して、僕なりの考え方をお伝えさせてください。今回のクエスチョンは、「南側の敷地にすぐ隣家があるんですが、この場合でも南リビングでしょうか?」というものです。そのことを肴に、いろんなことを解説していけたらと思います。
ちなみにこの質問に関しては補足がありまして、この敷地は南のすぐそばに隣家が迫っているそうなんですけど、東側が道路、北側が私道、西側は空き地だそうです。そういう敷地に対して、「南側リビングなんですかね?」という質問をいただきました。いつものように僕の板書を見ていただきながら、話を聞いてください。
結論から言うと、思われているような「南=リビング」という考え方は、半分は正解なんでしょうけど、半分は違うのかなという感じです。もちろん僕たちはパッシブ設計を標榜しているので、太陽に素直な家で、冬は太陽をいっぱい使う、夏は太陽を上手に避けるということを基本に、いろいろ考えていくんですけど、南に家があった時に「光が入らないから諦める」のかというと、そういうわけではないんです。
何を諦めずに探しているかというと、方位はたしかに重要なんですけど、方位だけでなくて「どこから空が見えるか」なんですよね。結局のところ直射日光が欲しいんですけど、太陽というものにはすごく力があるので、空全体は明るいわけです。空が見えるということは、明るさが来るということになる。だから空が見える方向で考えるのが、基本的な設計に関する考え方なんじゃないかなと思います。
ですから、南に家があったとしても、どこかの方向に空が抜けているところがあって、そこに開口を開けることができれば、光は入ります。一方で、南が空いている家でも、大きな木があったり、自分の家の庇が出過ぎていたりすることもある。ロング庇を好む人もいるので、南向きだけど庇が長いことで日が入らないという家もあるわけです。軒とかの問題もあるので、それだけじゃないんですよね。
建築の専門的な考え方の1つに「天空率」という言葉があります。空が建物などに遮られずに見える割合を算出する式で、容積率の緩和なんかにも使われます。例えば北側斜線制限で、本来より寄って建てているんだけど、天空率でカバーしているから、お隣の敷地の空は確保できていますよ、という考え方になるわけです。だから「南=日当たり=リビング」と機械的に考えなくてもいい、というのが大前提の結論になります。
印象に残った建物があるんです。松尾先生も師匠だと思われていて尊敬されている、大西憲司先生という方がいらっしゃいます。大西先生が大阪で設計されたお家を見せていただいたことがあるんですが、大阪の下町のガチャガチャした場所なのに、建物の四方が高い塀のような感じで構築されていて、近隣の家が一切見えないんです。無理やり自分の家で塀を作って、周りは建て込んでいるような擬似的空間を作っているんですね。
その家はルームツアーもあるので、概要欄に貼っておきます。入った瞬間どうなるかというと、外のガチャガチャしたものが一切シャットアウトされて、空だけが見える。「なんて空は綺麗なんだ!」という感じなんです。そして、「こんな建て込んだ場所なのに、なんでこんなに明るいんだ!」と思う。これぞ設計の力ですよね。やっぱり大西先生はすごいなと思いました。2〜3時間ぐらい見学させてもらいましたけど、痺れっぱなしのお家でした。そういう可能性があるということを、頭に置いておいてほしいです。
その上で、この敷地も同様に読むべきなのは、敷地の環境だと思うんです。条件整理をすると、まず南に隣家がある。でも東は道路だから開けている。たぶん4m以上の道路じゃないかなと思うので、4mぐらい空いている感覚ですよね。北側には私道がある。2mか3mかはわかりませんけど、空が抜けている可能性が高い。そして西側は空き地。西が空き地だったらいいじゃんと思うかもしれませんが、一番思うのは「将来どうなるかわからないな」ということです。私道は変わらないと思いますけど、西側は不確定なんですよね。
そうなってくると、この敷地で考えるなら、南にだけフォーカスする必要はないなとすごく思います。でも「南にフォーカスしないなら、どんな代案があるの?」ということになるじゃないですか。いろいろありますけど、6つぐらいかなと思うので、1つずつ紹介していきます。
まず最初に僕が考えるとしたら、東リビングです。僕もそうなんですけど、朝一番に出て日中はいない。人生の総時間で考えると、東の恩恵が欲しいなという感覚があります。最大のメリットは朝日ですよね。朝日を浴びて食事がしたい、という言葉もあるぐらいで、朝日が差し込んだ家って気持ちがいいじゃないですか。
何より人間は太陽に付属した生き物ですから、太陽が昇って沈むというリズムの中で生活を整える。朝日を浴びるというのは非常にポジティブだし、日々新鮮な気持ちになる感じがします。しかも日が欲しいのは冬です。冬は朝が一番寒いから、そこに朝日が差し込むのはかなりいい。夏場に関しては朝はわりかし涼しいし、夕方は西日で暑いですよね。西側が閉じられていて東側が開けているということは、午後は日陰になるので、夏も焼け込みが少ない。だから東リビングって悪くないんです。ましてやこの敷地は東に開けているので、東リビングもいいんじゃないかなという感覚ですね。
そして2つ目が、南に高窓を切るという方法です。ハイサイドライトという通称がありますけど、普通の窓って2400くらいの天井高なら中ほどに切ることが多いじゃないですか。でも目一杯天井側に窓を切ると、光は高いところ、空に近いところから降り注ぐので、かなり効くんです。ここは隣家があるんだけど、建物との間隔がゼロなのか、1〜2mあるのかによって、ハイサイドライトが効く期間も変わってくると思います。
究極のハイサイドライトは、2階部分から大きな窓を取って、吹き抜けを通して下に落とすというものです。僕たちが得意な「吹き抜けを使って1階を明るくする」というやり方ですね。冬の太陽は高度が低いので、斜めからの光を高い位置で受けると、建物の奥まで光が届きやすい。広く明るくなりやすいという利点があります。
3つ目は、ちょっと小癪な技かもしれませんけど、光を反射させる方法です。欧米の真っ白い建物ってありますよね。あれは光を使うというより、反射させる意味もあるのかもしれません。例えば隣家の壁が白かったらその壁を利用するとか、自分のところで壁を作って反射させるとか、ウッドデッキの照り返しを使うとか。こういう反射した光を「セカンドサンライト」と言います。これを利用するという考え方もあります。
4つ目が中庭ですね。コートハウスという言葉がありますけど、外からの視線を遮りながら、確実な採光と風通しを得る。都市型の密集地では、すごく面白い方法だと思います。
5つ目は、西側が空いているなら、それを使えばいいんじゃないかという考え方です。ただ、西は将来どうなるかわからない。もし今景色がいいなら、「ピクチャーウィンドウ」という絵の額縁みたいな窓をつけるのがいいと思います。西日も入るので、大きすぎない方がいいですね。外を切り取る感覚です。もし将来建物が建って景色が消えてしまっても、小さな窓の前に綺麗な樹形の木を植えておくといい。風にそよぐ木を見るのって、向こうに景色があった時以上に美しいこともあるんです。
最後はかなり高等な技ですけど、光ファイバーを筒状にして、明るいところから光を引っ張ってくる方法もあります。それから階段室をシースルーにして、踏み板だけが浮いているような階段にして、格子の手すりから光が降り注ぐようにする。吹き抜けが取れなくても、階段室を上手く使って光を落とすことはできます。
さらに「光床」という方法もあります。格子状のグレーチングみたいなものを樹脂で作って、床として使う。若干コストはかかりますけど、床があるのに上からの光が通る。上に洗濯物を干していても、下からは見えにくい。そういう工夫もできるんじゃないかなと思います。
こういうふうに、リビングだけを局所的に明るくするんじゃなくて、家全体を明るくする方法を考えることが大事なんです。最近繰り返し言っていますけど、家は間取りありきじゃなくて、環境ありきなんです。環境を生かして、その後に間取りがついてくる。理想の間取りを作っても、周りの環境を無視していたら、それは理想の間取りではなくなると思うんですよね。
人は間取りだけで住むのではなくて、光や風、空間の高さや広さで豊かさを感じるものだと思います。そんな視点で、南側の隣家という話から始まったんですけど、みなさんの家づくりも考えていただけたら楽しいのかなと思って解説させていただきました。


