令和8年熊本地震、家づくりであきらめてはいけないこと
まず今回、再び起こった熊本地方の地震に際しまして、お亡くなられた方にお悔やみを申し上げたいと思います。また、被害に遭われて今もなお不安な時間を過ごされている方に、心よりお見舞いを申し上げます。救助や復旧、生活支援に携わっておられる方々には、改めて深い敬意を申し上げたいと思います。
2016年の熊本地震からわずか10年、再び熊本の地で震度7を超える大きな地震が発生したことは、家づくりに携わる者として、改めて家の役割について考えさせられる思いです。平穏な日々を快適に過ごすこと以上に、災害時に命を守り、災害後も暮らしをつないでいくことに関わるのが家の役割だと思います。令和8年熊本地震というような名前で報道されているこの地震を経験し、家づくりで諦めたらアカンものはあるよなと強く思いましたので、今日はその基本的なテーマについてお話しします。
今、建築費が非常に高騰し、多くの方が家づくりに際して何かを諦めている現実があるようです。リクルートさんの調査によると、注文住宅の建築費は土地代を抜いて平均3488万円、ざっと3500万円です。上限ではなく平均で、前年度より1軒当たり73万円ほど増えています。建築費3000万円以上の人は全体の62%ですから、注文住宅は3000万円以上かかるのが現状です。十数年前には2000万円ぐらいでもある程度の家が建っていたことを思うと、1.5倍以上です。
予算の兼ね合いで蓄電池を諦めた人は16.1%、延べ床面積を大きくすることや平屋、高級感を出すことを諦めた人もいます。太陽光発電は約9.2%、ほかにも外観デザイン、ZEH仕様、間取りなど、6.8%や7%近くの人がいろんなことを諦めています。一方で「諦めたことは何もない」という人が全体の24.6%もいたことに、僕は驚きました。
これは、お金がたくさんあって何も諦めずに済んだ人だけではなく、最初から家を小さくしたり、自分たちの要望を整理して必要なものをきちっと決めたりした結果、聞かれた時に「何も諦めませんでした」と答えた人も多いのかなと思います。同じアンケートでは、フルオーダーの建築費は平均3670万円、規格住宅といわれるセミオーダーは2790万円で、その差は880万円です。セミオーダーは妥協する感じもしますが、880万円をかけなくても、先ほど挙げたものは実現できないことばかりではありません。家づくりに対するマインドセットは人によってさまざまなのだと思います。
今回の地震で、大事なことや諦めたらアカンことがあると改めて感じました。建築費高騰の中で、諦めるものと諦めないものをどう分けるか、私なりにお話しします。家を建てる時には、大体三つの機能があります。一つ目は命を守ること。二つ目は暮らしをつなぎ、続け、育むこと。三つ目は、潤いや楽しさを生み、暮らしを彩ることです。
命を守る機能とは、今回のような強い地震でも壊れないことです。地盤や地盤補強、基礎がしっかりしていること、構造体の接合部が丈夫で、ホールダウン金具によって縦揺れでも引き抜かれないことなどです。構造計算がきちんとされ、安全が見込まれていることも大切です。また、防水や耐久性、雨仕舞いも欠かせません。家は建って終わりではないので、10年、20年経っても命を守る機能が失われないための性能が大きいです。
暮らしをつなぐ性能は、災害が起きた直後から、その後1〜2年経っても暮らせることです。断熱性能や気密性能、太陽光発電や蓄電池、日射遮蔽や日射取得などが大きな要素になります。暮らしを豊かに彩る要素には、豪華なキッチン、綺麗な内装材、広いリビング、たくさんの収納、凹凸と陰影のあるカッコいい外観などがあります。家づくりの楽しさとして大切ですが、予算に限りがある時、命や暮らしを守る機能と同列に並べ、こちらを優先するためにあちらを削るという考え方は、したらアカンと改めて思いました。
まず絶対に大事なのは、家が倒れたらダメということです。耐震等級3は何をおいても最優先です。予算を削る話になると、「大きな地震は来ない」「うちの地域には活断層もない」と考え、耐震性に意識が向かなくなることがありますが、ここは今回改めて強く言っておきたいです。構造塾の佐藤実先生も、家にとって最初に必要なのは、地震の瞬間に家族の命を守ることだとおっしゃっています。
その時に家が潰れてしまったら終わりです。命を守るための基準が耐震等級1で、建築基準法に定められた耐震性能を満たしています。ただ、大地震は家にダメージをもたらします。耐震等級1は、一発の大きな地震から命を守ることは保証できても、無傷のまま耐震性能を維持する基準ではなく、その後はケースバイケースです。法律なのにそうなのかと感じる方もいると思います。外からまっすぐ立っていて何もなさそうでも、耐力壁や柱、梁、接合部が壊れている可能性があります。
10年前の熊本地震では、一発目に耐えても二発目で大きな損傷を受け、壊れた家がありました。最初の大きな地震に耐えても、見えないところで耐震性能が下がり、その後の地震で壊れたり倒れたりすることがあります。耐震等級3は壊れないという以上に、ダメージをなるべく最小限にすることまで安全を見た基準です。ここは何があっても絶対に諦めてはいけないと思います。
次に、避難生活を減らす性能です。今の夏はめちゃくちゃ暑く、避難所の方は本当に大変だと思います。エアコンが十分に効かない、水が確保できない、大きな体育館で雑魚寝するといった生活は、1日、2日ならともかく、1週間、長ければ1ヵ月にもなると心身ともに疲弊し、元気な人でも病気になることがあります。家が倒れずに済んだ後、できれば避難所に行かず、家で生活を続けられるようにするため、断熱性能や自給電力の確保は優先順位が高いと思います。
停電、断水、ガスの停止、避難所の混乱を考えると、夏の暑い時や冬の寒い時の地震は本当にこたえます。太陽光発電や蓄電池を備えた家なら、ある程度融通が利き、きちんとした蓄電池があれば自給自足に近い形ができたかもしれません。太陽光発電の多くには自立運転機能が付いているので、太陽が出ている間は専用コンセントから電気を使えます。蓄電池がなくても、日中に携帯電話を充電したり、最低限の炊事をしたり、お湯を沸かしたりできます。気温が上がる時間にエアコンを多少動かし、小さな一室に集まって涼を取れる可能性もあります。蓄電池があれば夜間も使え、避難所に行かずに済むことにつながります。
冬の地震なら、高断熱にしておくことで室温の低下をある程度防げます。パッシブ設計で日射取得ができていれば、日中は無暖房でも普通に暮らせることがあります。日本は国力が落ちたと言われる中でも、まだまだみんなを助け、復興していく力があります。地震直後から復興までの間を最小限のダメージで乗り切るためにも、こうした避難生活を減らす性能が必要だと思います。
建築費高騰への対策では「何を削るか」ではなく、「何を守るか」という問いで優先順位を考え直してほしいです。基本として、耐震等級3にできる地盤の見立て、基礎の仕様、構造をしっかりやってください。雨漏りしないことや断熱気密も大切です。いつ地震が来るか分からないので、竣工時に耐震等級3でも、雨漏りを繰り返したら家は弱くなります。こうした基本は絶対に惜しまず、防水をきちんとし、耐久性の高いものを選んでください。
あとは家族構成と地域です。小さなお子さんやお年寄りがいるなら、なるべくダメージを減らすため、太陽光発電や蓄電池をつけられるならつけた方がいいと思います。給水や給湯の備えも、バックアップを含めて考えておきましょう。停電時の非常電源は、家につけるような大きな蓄電池でなくても、ポータブル蓄電池があります。毎日のルーチンの中で必ず充電しておくことです。
僕はポータブル蓄電池をあまり信頼していなかったのですが、最近はキャンプに持って行く人も多いですよね。昔の発電機と違って音もせず、電気をつけたりヒーターを使えたりして、意外と持つし、結構使えるという体験もあるので、そういうものでもいいと思います。
予算調整では、家をなるべくコンパクトに小さく、形はシンプルにすることです。パッシブ設計は方位や窓の開き方がポイントなので、そんなにお金がかかるものではありません。まず何を守るかに重点を置き、優先順位を立ててから、削るもの、諦めるものを決めてください。予算の帳尻を合わせるだけではなく、基本を押さえることが、令和8年熊本地震から得られる大きな学びになると思います。これから家づくりの設計過程に入るみなさんにとって、本当に重要な機会だと思うので、ご自分たちの家づくりに活かしていただければと思います。


