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パワービルダーがUA値0.28を標準化することについての注意点

今日は少し業界寄りのトピックをテーマに、家の性能や技術的な数値についてお話ししていこうと思います。数字の話も出てくるので、そういうのがちょっと苦手だなという方には聞きづらいかもしれません。でも、実はその数値の裏側にもっと大事なことがあるんです。今日はそこを丁寧にお伝えしていきますので、少し根気がいるかもしれませんが、最後まで聞いてもらえたら嬉しいです。

さて、今、住宅業界の中で「風雲児」と言われている会社さんがあります。それがI工務店さん。イニシャルで言ってすみません。でも、もう皆さんご存じだと思います。もともと僕と同じ兵庫県の神戸市からスタートした会社で、今はものすごい勢いで全国展開している、まさに業界の成長株のひとつです。そのI工務店さんが、なんと全国一律で外皮性能、つまり断熱性能の指標であるUA値を“0.28W/㎡・K”以下で標準化する、という発表をされたんですね。9月1日に正式にプレスリリースがありました。これを聞いたとき、同業として本当に驚きました。「おお、すごいな、I工務店さん思い切ったな」と。

一方で、そのニュースを聞きながら僕の師匠でもある松尾先生の顔が浮かびました。先生はもう何十年も前から「住宅の高性能化は絶対に必要だ」と、省エネ性・快適性・そして暮らしの幸福という面から訴えてこられた方です。だからこそ、いわゆるパワービルダーさんがUA値0.28を標準化するというのは、ある意味“業界の覚醒”とも言える出来事なんですよね。以前のI工務店さんのUA値はおそらく0.4くらいだったと思います。0.4でも悪くはないんですけど、それが一気に0.28を標準にするというのは、やっぱりすごい進化です。ただ僕は、この動きを手放しで喜ぶだけではなく、「これはこれで気をつけなあかんな」と感じる部分もあって、今日はそのあたりを少し掘り下げていきたいと思います。

もともとこの“高性能化”の流れを業界に広めたのは、一条工務店さんですよね。浜松の一地方工務店から始まり、今や年間約1万6千棟。大手ハウスメーカーの積水ハウスさんを小建て住宅では超えるような勢いです。そんな一条さんに、I工務店さんが挑もうとしている。現在I工務店さんは年間約5800棟で、2年後に8000棟を目指しているそうです。まさにバチバチの勝負。業界が活性化するのはいいことですが、一方で新築着工数自体は減少傾向にありますから、競争はどんどん厳しくなるでしょう。それでも消費者にとっては性能競争が進むのはプラスです。

さて、こうした大手の動きに引っ張られる形で、僕たち地元の工務店や他のハウスメーカーも、高性能化に真剣に取り組まざるを得なくなってきています。今や「ヒート20のG2グレード」、つまり温暖地域でUA値0.46以下、C値1以下、耐震等級3というあたりが業界の標準ライン。僕たちも最低限ここまではやらなければ仕事を取っていけない時代になりました。そして、その流れの“究極形”が、今回のI工務店さんの発表なんです。

ただ同時に今、建築コストの高騰が大きな問題になっています。大阪万博の影響もあって、コンクリートや建材の値段が上がり続けている。面積を小さくして価格を抑える流れの中で、実は「窓の数や大きさを減らす」という傾向が顕著なんです。最近建てた家を見た年配の方が「窓が小さい」「窓がない」と驚くくらい。息子さんの家を見に行って「お前、窓ないやん!」とつっこんだら、「いや、性能が高いから」と返される――そんな光景もあるそうです。

でも、UA値0.28の競争が始まると、さらに“窓を減らす流れ”が強まるのではないか、と僕も松尾先生も懸念しています。なぜかというと、UA値は窓の数や面積に大きく影響されるからです。たとえば300㎡の建物でUA値0.3だった場合、トリプルガラスの窓1枚(約3.3㎡、UA値1.0)を壁(UA値0.2)に変えるだけで、UA値は0.2911に下がるんです。つまり、窓を1枚減らすとUA値が0.01改善する。これを2枚減らせば0.28に届く。しかも窓1枚で15〜20万円のコストカットになる。営業的には「性能も良くなって価格も下がります」と言えるわけです。だから、ついそうした方向に流れてしまいやすい。でもそれでは、UA値が“目的”になってしまうんですよね。本来、UA値は「快適で省エネな暮らし」を実現するための“手段”であるはずなのに。

僕が心配しているのは、全国一律で0.28を求めることの違和感なんです。北海道や長野のような寒冷地なら納得ですが、関西・西日本のような温暖な地域で同じ基準を課すのは、果たして本当に豊かな暮らしにつながるのか。むしろ「窓を増やして外とのつながりを感じられる暮らし」の方が、人の心を豊かにするんじゃないかなと思うんです。

僕も今63歳になりますが、若い頃は仕事に追われ、家でゆっくり過ごす時間なんてなかった。でも最近ようやく少し落ち着いて、自宅で過ごす時間の心地よさを感じるようになりました。窓から見える山の緑、小学校の桜、母が手入れしてくれた庭の草花――そうしたものが、暮らしをどれほど豊かにしてくれるかを実感しています。昔は「鉢植えばっかり増やして!」なんて文句を言ってましたけど、今思えば母なりの“暮らしのデザイン”だったんだなと思います。

だから、窓を減らすとどうなるか。家の中が薄暗くなります。お風呂やトイレ、廊下にも窓がない家が増えていますが、それで本当にいいのかなと。名建築と呼ばれる家は、北側にも上手に窓を設けて、光や風、景色を取り込んでいます。松尾先生の言葉を借りれば、「冬の日射取得の豊かさに勝るものはない」。太陽の光の“ほっこりしたぬくもり”こそ、人間の本能が求める快適さなんですよね。

結局のところ、パワービルダーさんが高性能を売りにするのは、お客さんのためというのももちろんありますが、営業的に“売りやすい”という面もある。「うちはUA値0.28ですから」と言えば、数字で優位性を示せる。でも、家づくりは本来もっと全体的で繊細なものです。人間の体と同じで、一部分だけを強化しても健康にはならない。家も外皮性能だけで快適になるわけではありません。光・風・景色・素材――それらが全体として調和してこそ、心地よい暮らしが生まれるんです。

だから僕は、「高性能だからいい家」という単純な見方ではなく、その家が“心地よいかどうか”を見てほしいんです。明るいか、外とつながっているか、閉塞感はないか。そうした視点が、お施主さんやその家族の幸福度を左右します。UA値はその中の一つの要素でしかありません。

業界全体が競争し、技術が進歩していくのは素晴らしいことです。だから僕たちも負けずに、「UA値0.28を超える、本当の意味での“豊かさ”」を追求していきたい。生き残るというより、より良い家づくりを通して人の幸せに貢献できる工務店でありたい。そういう気持ちで、これからも頑張っていきます。

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