「家をつくって子を失う」という、なかなかショッキングなタイトルの本を御存じでしょうか?
これから家を持つ方や、住宅業界や住居設計のプロにむけて、平成11年に松田妙子さんによって書かれた警告の本です。
内容をかなり乱暴に要約して説明すると、家づくりにおいて、子供室を独立性の高い個室にした弊害で、親子のコミュニケーションがうまくいかなくなり、家族の孤立、野放し、無関心を助長した現実への糾弾を、これでもかと書いてあります。
ハウスメーカーを創業した女傑が書かれた文章なので、道徳的で上から書かれていると感じられる部分も多いのですが、日本の住宅のつくりや設計の考え方について真剣にかかれていて、今更ながらハッと気づかされる内容がありました。
松田さんは、昭和40年代まで家は、「主人本位」で建てられて来たと指摘します。
「主人本位」とは、主人や家の威厳を誇示する広い座敷や、応接間など接客本位で建てられた建物で、私の祖父たちのような旦那的な人が好んで建てる家です。
その後、その反省を踏まえ、もっと家族を中心においた「子供本位」の家になった日本の家。
「子供本位」とは、子供部屋をしっかりとることを、ご主人の書斎スペースなどより優先するという感じの、子育てに特化した感のある家です。 松田さんはこのことを、子供を野放してしまった意味において、真の「家族本位」の実現はまだされていないと警告しているのですが、以来20年この傾向は一向に弱まることはなく、返って強まった部分もあると、現場にいるものとして感じる部分が多々あります。
それでは子育てを中心にすえた「子供本位」の家の次には、いかなる考え方が必要になるのでしょうか?
最近は、「人生100年時代」という言葉が示すように、30代で子供をさずかり、子育てが終わる50代後半から、さらに30~40年男女ともに生きる時代になって来ました。 物騒なことを言いますが、もし子育てが終わり、夫婦が協力する意義が薄れてしまい離婚する危険性を感じるようなら、家は建てない方がいいのです。
家を買うにあたり、住宅ローンという債権を持って購入することが常識の今は、離婚後に不合理で難しい問題を残してしまいます。変な言い方ですが、幸せな離婚にならないのです。
なので、これからの家づくりは、子育てしやすいということはもちろんですが、子育てが終わっても、夫婦がさらに仲よく暮らしてゆくことを育めるものでなくてはなりません。
子育てを、奥さんの頑張りだけに頼らない家。家事も夫婦の共同作業で行うのが前提の機能的な家。子育て中であっても夫婦のそれぞれに、静かな時間を楽しんでもらえる家。これからの家は、「夫婦本位」そうなるべきではないかと、私は考えます。
この6月、師匠の松尾先生とコラボレーションして設計していただいモデルハウスが上棟されます。「夫婦二人の家」をテーマに、「夫婦本位」の家を具体化します。ぜひ、楽しみにしてください。